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②
「栢木は底意地が悪い」
もっしゃもっしゃと咀嚼し終わったあと、輝雅はぎっちりと眉間にシワを寄せて言い放った。
「ひとの作った飯食べてるやつがそういうこと言う?」
「ご飯に罪はない」
もっぎゅもっぎゅと小動物よろしく頬袋を膨らませて食べる輝雅。これでも顔がいいのだから本当に顔のいい人間は得だ。
あの一件以来、梨央はグイグイと輝雅のプライベートタイムを侵略し続けた。
部屋への押し入りや部屋への連れ込み。朝昼夜は一緒にご飯を食べるはめになり、取り巻きたち――特に諒が「なにがどうしてそうなった」と質問責めしてきた。
「これがこうしてこうなった」なんて説明ができない輝雅は嘘をつくという行為に心を痛めながら「……っ、貧血で、倒れそうになったところを……っ、助けて、貰ったんだ……っ」と嘘をついているとバレバレな嘘をつき、輝雅が嘘をつくのが苦手だと知ってる取り巻きたちはそんな輝雅を慮りそれ以上の追及をやめた。(が、梨央には「輝雅さんに何をした」と輝雅にバレぬように詰め寄っている。)
「ほんっとに、栢木は底意地が悪い」
「んなにカリカリすんなよ。生理中か?」
「生理は先週で終わった!」
「……そうでしたね」
箸を乱暴に置き、「ごちそうさまでしたっ」と手を合わせることなく輝雅は席を立った。普段食前食後の合掌をしっかりしている輝雅。これはわりと本気でイラついているなと考える梨央は、(ごめんなさいお母さん。輝雅は合掌をしませんでした……っ)と、輝雅が母親に懺悔していることなど知らない。
食後30分は頭と足を高くして右横臥の体勢をとるといいと諒に教えられた輝雅は素直にクッションとブランケットをソファに積み、横になった。
「おいおい、それ足元に使うなって何回も言ってんでしょ」
輝雅のあとに食べ終わった梨央は輝雅の足元からブランケットを引き抜き、もうひとつの円柱のクッションを代わりに足の下に置く。引き抜いたブランケットは広げられ、輝雅の身体にかけられる。
ポムポムと腕を叩き、梨央は輝雅から離れて食器を洗い出す。
この部屋で、梨央の部屋で輝雅が何かをすることは基本的にない。梨央が「好きに寛げばいい」と言っているのもあるが、あのときのことを輝雅が理由にして、何もしないようにしている。本当は一方的に尽くされるのは好きではない。自分が尽くされる側の人間であると自覚しているがそれは時と場合と、立場によるものだ。
本来、梨央は輝雅に尽くす立場ではないし、輝雅も梨央に尽くされる立場ではない。
でも、あのときのことを理由に、輝雅は梨央に尽くされる立場にいる。
梨央は構わないと言うし、胃袋を掴むチャンスと言ってむしろ嬉々として輝雅に尽くす。
(なんだか、いけない気がする)
輝雅はむう、と口を尖らせた。
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