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そのよん
関係性に名前がない。
仕事上の関係はある。同級生でもある、だが、セックスをするのに理由となる関係が、ふたりにはない。
わっしゃわっしゃと輝雅の頭を洗う梨央を見上げ、ぼんやりと考えた。(浴槽のふちに痛くないようにと置かれたタオルに首をあて、さながら美容室のシャンプー台のような状態で頭を洗われている。)
輝雅の頭を洗う梨央はいつも楽しそうな顔をしており、先ほど――セックスの最中――のような笑みとはまた違うものでなんだかくすぐったかった。
今日は全身を舐められまくった。耳、口、首から全身を這っていく舌は十の指も一本一本丁寧に舐めた。くったりとした輝雅はぼんやりと天井を見上げながら、梨央が舐めているのは足だからもう終わりだろうと思っていた輝雅は、膝裏をもって身体を折り曲げられたことに気づくのに時間がかかった。
「かし、わぎ?」
「ここはまだ、舐めてねえだろう?」
くつりと笑う梨央。ひくりと喉を震わせる輝雅。
――両方の穴を、一等丁寧に舐められ、輝雅の喉は枯れた。
思い出して、ぐるぐると腹が煮えるような感覚になった輝雅はのろのろと腕を持ち上げ、梨央の頬を引っ張った。
「いたたた。なになに、どうした」
「顔が腹立つ」
「暴言にもほどがあるでしょ」
あきれたように、梨央はわざとシャワーのお湯を輝雅の顔にかけた。
「んぶ」
「ははっ、間抜け顔も可愛いとか」
「――――」
梨央はよく輝雅に対して「可愛い」と口にする。輝雅の顔の造形から身体や仕草、ありとあらゆるものを理由として、「可愛い」と言う。
梨央が言う「可愛い」にはどういった意味があるのか。
「かしわぎ」
「んー?」
「栢木はおれと、どうなりたいの」
* * * *
すぴすぴと可愛い寝息をたてる佳人を見下ろし、梨央はうっそりと笑う。
梨央に唆されて流されてきた輝雅の口から飛び出した疑問は、梨央からすれば今更と一蹴するものだった。
――宮とどうなりたいかなんて、愚問でしょ
勿論梨央はにっこりと笑って本心から「恋人になりたいよ。つうか、なってるつもりだった」と答えたのだが、輝雅に変人を見るような目でねめつけられ、まるで「訊いた自分がバカだった」と言わんばかりに大きなため息を吐かれた。(実際「おれはバカだ」と呟いていた。)
セックスをして、可愛いと言い、さまざまに尽くしてきた。これで今更「どうなりたいか」だなんて。本当に輝雅はバカだ。
ここまで愛されておきながら、今更。桐箱入りのお坊ちゃんはずいぶんと鈍感のようだ。
「逃がさない、離れない、――手放しはしない。ほんとうに、今更なんだよ」
うっすらと開いている口の中に指をいれ、無理やり開き舌を撫でる。
輝雅とて、今更梨央から離れられまい。そうなるよう、梨央は手を尽くしてきた。それでも離れようと思うのであれば――
「ひとまず、身体から堕とさなきゃだねぇ」
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