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②
梨央は輝雅と恋人になりたいと言っていた。もっと言えばもうすでに恋人だと思っていたらしい。
ふむ、と細い顎に指をかけて輝雅は思案する。
テーブルに広げられている課題の数式などひとつとして頭に入ってこず、輝雅は梨央のことを考える。
「輝雅さん? その課題そんなに難しいですか?」
傍に控える諒の声は輝雅に届いていない。
「輝雅さーん? ……課題を見てるわけでもなさそうだな……」
一先ず諒は輝雅に紅茶を淹れるためにキッチンに向かった。
「――――輝雅さんっ」
「わっ。……え、なに?」
ティーポット片手にこちらに詰め寄ってきた諒に輝雅は仰け反った。
「輝雅さん、ご自分で紅茶淹れました?」
「へ? 淹れるわけ……淹れれるわけがない。いつも諒が淹れてくれてるからおれは淹れれない」
典型的なお坊ちゃんである輝雅は炊事はまったくできない。調理実習のときも周りがハラハラするほどに手元が覚束なかった。(包丁を使わないお菓子作りだけは昔から母とともにしていたためにできる。)
「そうですよね……。では、棚をいじられましたか? 茶葉が違うところに入っていたんです」
「水分を摂る以外で台所行かない、け……」
脳裡ににんまりと笑う男の顔が過った。どうやらそれは諒も同じだったらしく凄まじい顔をしていた。
「……あの男……」
* * * *
右から西宮、宮内、宮門、浅宮。輝雅の宮家を本家とする分家が勢ぞろいしており、梨央を囲んでいた。
壮観で圧巻な眼前の光景に、少し前の梨央であれば「いい香りのするいい容姿の子らに囲まれて幸せ」だと思っていただろうが、輝雅を知ってしまった今ではこの程度で喜ぶことなどない。
「あなたと輝雅さんの関係はなんなんですか?」
「というか、仕事以上に関係があるってどういうことですか」
「輝雅さんのお部屋に出入りしてるそうじゃないですか」
「わたしだって滅多に入らないのに!」
口々に梨央に詰め寄ってくる。(最後の西宮はほぼ私情の苦情だ。)
「西宮」
「失礼しました」
筆頭の諒は静かに西宮を嗜めて、再び梨央を見据えた。
「で?」
「……宮との関係、ねぇ……。俺は宮とは恋人だと思ったんだけどね? 宮は……そうは思ってなかったみたい」
諒以外の三人がその場に崩れ落ちた。西宮に至ってははやくも噎び泣いていた。
「輝雅さんが……っ、わたしたちの可愛いかわいい輝雅さんが……! クソみたいな男に……っ」
「クソって」
「わたしたちがあなたのことを知らないとお思いで? 中学での行いを隅々まで調べ上げているんですからね」
「興信所かよこっわ」
「バナナカッターを用意しなくては」
「本気でやめて」
ぎちぎちと血が出そうなほどに唇を噛みしめる西宮の怨念がこもった顔が恐ろしくて諒から目を逸らすことができない。
「栢木梨央。あなたは――輝雅さんのお身体のことはご存知で?」
その質問に、梨央は嗤った。
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