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そのご
皿に美しく生けられた花は、横たわっていたときよりも生き生きしているように見えて輝雅は感嘆の息を漏らす。
その日、徐に「花を生けたい」と言い出した梨央にくっついて輝雅は華道部の部室に来ていた。午後から自主活動をする予定だったという部長を朝から呼び出し部室を開放してもらっていた。
輝雅は梨央が生ける花を初めて見た。趣味の範囲を超えない、素人の生ける花だと言っていたが生けたことのない輝雅から見れば充分に綺麗だ。
「こんなんで驚いてたら、父親の一番弟子の花見たとき倒れちゃうんじゃない?」
けたけたと笑いながら借りたハサミについた水を丁寧に拭う梨央。
「そのひとはすごいのか?」
「そうだね。……いや、すごいなんてもんじゃない。次の家元確定ってぐらい、本当に……あれぞ、 “華” って感じ」
「語彙力……」
「一回見たらわかるって。語彙力が貧相にもなる」
ずっと正座をしていたというのに痺れた様子もなく立ち上がった梨央は華道部の部長に「わざわざ開けてもらってすみません」と声をかける。
「いえ、こちらこそ素晴らしいものを見せていただきました。素人といえどさすが家元のご子息ですね」
「はははっ、どうも」
梨央は部長にひらひらと手を振り、輝雅を促し部屋から出ていく。
満足そうな顔で歩く梨央の横顔を見つめ、輝雅は尋ねた。
「……家元……、梨央のお父上もすごいのか?」
「そうだなぁ……あのひとは、ちょっと次元が違うかも。一番弟子……俺の従兄弟なんだけどな。そのひとの花はこの世にあるものって感じはするんだけど、父親はほんと……別次元、別の世界のものって感じ。あれは、真似はできっこねえな」
何度も見ている、父が花にもう一度命を吹き込むその瞬間。見栄えだけではない、香りすらも整えられたその花は言葉を失くすほどだった。
「いつか輝雅にも見せてやりたい、うちの父親の花」
屈託のない、子どものような無邪気な笑顔。
顔に見合う不遜な笑みが多い梨央のそんな表情は滅多に見られるものではない。
(あー……梨央が可愛い、だなんて……)
笑顔が見られた嬉しさと、その笑顔を可愛いと思ってしまった、という悔しさに似た感情。
「…………」
少し歩調を緩め、梨央のななめ後ろを歩き――、
「ぁ痛! え、え? なんで叩いたの? なんで俺今叩かれたのっ?」
思いっきり梨央の背中を叩いた。
* * * *
どんなに頑張って口を開いても、咥えきれない恋人の性器。何度かチャレンジはするが顎が疲れるのが嫌な輝雅は舐めることに集中する。
陰嚢を食み、ちゅると音を立てて吸う。舌を這わせ上に上に、舌を細めて裏筋をつつつ、と。
亀頭は咥えて鈴口を舌で刺激し、溢れ出てくる先走りを啜る。
「はっ……」
気持ちよさそうに息を吐く梨央に頭を撫でられる。
ちらりと梨央を見上げれば、常より細められた目元は紅潮しており色っぽい表情をしている。
(梨央がおれのえっちぃ顔が好きだって言ってたの、わかる気がする……)
かぷ、とえらの下に軽く歯を立ててやんわりと顎を動かす。
「あー……やばいやばい。てる、っんぁ……」
輝雅がやりやすいように、と広げられていた脚が閉じ始めて、くしゃりと髪の毛を掴まれる。
亀頭にれろ~……と舌を這わせて鈴口を指で塞ぐように、ぐりぐりと押してやれば内腿がびくりとはねる。
「りお、でそう?」
「ん……もうイきそう」
梨央の性器を扱き、もう片方の手で陰嚢を揉む。
にちゅにちゅと先走りで湿った音がする。
「ああ~……、いく、てるまさ、イく」
手をはやめ、亀頭を重点的に攻める。
「っ、ぁあ゛あ゛~~……ッ」
上体を丸め、輝雅の頭が抱え込まれる。
出てきた精液を開いた口で受け止め、なかに残らぬようゆるゆると扱きながら鈴口を啜る。
「んっ、んっ……」
とろんと呆けた目で輝雅が口の中のものを飲み込むのを見つめていた梨央は、飲み終わったであろう口元に指をそえて「口の中見せて」と強請る。
「んあ」
開けた輝雅の口の中に梨央の親指が滑り込むように入ってくる。ぐり、と舌に指が押し付けられる。
「……じょうずに飲めたね……」
ゆるりと笑い、精液を飲んだあとだというのに気にした様子もなく顔を近づけて口の中を舐められる。散々梨央の性器を舐めた舌を食んで、じゅるじゅると音を立てて唾液を啜る。
屈んでいた梨央は口を合わせたまま輝雅の腕をつかんで起こし、輝雅が梨央を覆い被さるような体勢になる。
「今日はこのまま……輝雅にリードしてもらおうかな。俺の上でいやらしく腰振ってよ」
無遠慮に輝雅の臀部をふにふにと揉む手をつねり、ため息をつく。
「へんたい。……ゴム持ってこい」
今ふたりがいるのはソファだ。リビングダイニングにスキンは置いておらず、あるのは寝室のみだ。
「はいよ」しょうがないな、という顔をして梨央は一度輝雅の下から出て寝室へ消えた。
ひとりソファに座っていた輝雅はふと思う。
(……おれもあっちに行けばいいんじゃん)
少しぽやぽやとしていた頭が働き始め、はぁ、と小さく溜息をついた。
ソファから立ち上がり梨央を追いかけて寝室へ入る。入り、輝雅は立ち止まった。
「……梨央?」
なぜ、輝雅が来るまでの一分に満たない時間でベッド周りが泥棒が入ったかのように散らかっているのか。
「あー、んー……。あ、てる」
「なにがあったんだ、これ」
「いやー、さー。ないみたいなんだよなー」
わしわしと頭をかいて、梨央は困ったと眉を下げる。
「ない?」
「うんー……。コンドーム、ないっぽい」
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