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第4話
あの時はただ、宝を持ち帰ることのみ考えていた。そして、純粋に力と力の勝負ができることも喜ばしかった。鬼の棟梁との打ち合いにヒヤリとする場面もあったが、それでも楽しかった。
その場所に行けば、気が晴れるかと思ったが、やはり桃太郎の心にはしこりが残ったままであった。
「何じゃここにおったのか」
桃太郎が佇んでいると、後ろから声がした。
厚みのある低音とでも表現すればいいのか。振り返らずともわかるその声は、桃太郎と死闘を繰り広げた鬼の棟梁のものであった。
「民がお主を何とかせいと喧しいんじゃ。お主が恐ろしゅうて敵わんのじゃろうな」
「私が、恐ろしい……。」
桃太郎は、体を反転させ、鬼の棟梁を見やる。
赤い装束の上からでも分かる鍛えられた体躯。精悍な顔立ちに髭を蓄えているが、清潔感があり、不思議と粗野な印象ではない。
筋骨隆々の美丈夫といったところだ。
桃太郎とて鍛えているのだが、やはり血の違いか、受ける印象は異なる。
桃太郎にとって、畏怖の感情を向けられる事は初めてではない。桃から生まれたという出自を持つ以上、最初は皆、そういった感情、眼差しを向けてくる。
桃太郎の献身的な性質に触れ、わだかまりは溶けていく。
かつて人々から向けられた感情を、鬼達からも向けられる
。
ますます桃太郎は分からなくなった。人々は、鬼達を獣同然と恐れた。そして人々は、かつて自分のことも恐れた。
そして今、自分は鬼達にも恐れられている。
鬼を悪と見なし、討伐に当たってきたはずなのに、どうして人と変わらぬ反応をするのだ。
「今度は返り討ちにしてやろうかと思ったが、えらく傷心のようじゃな」
「傷ついている?」
心の臓を捕まれたような衝撃を受け、桃太郎はそう返すだけでやっとだった。
「とても悪い鬼を倒して財宝を持ち帰った英雄とは思えん顔じゃ。後悔しておるのか」
またもや衝撃。
「馬鹿な!」
なぜ声を荒げたのか。桃太郎は理由もわからないまま叫んでいた。いや、本当はわかっているのだ。
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