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第6話
鬼の棟梁が桃太郎へ顔を寄せる。その瞳から目を反らすことができなかった。
何て美しい色をしているんだ。
この瞳の前では、全てが露にされてしまう。
「揺らいでおるのじゃろう。自分が善と信じた者が本当にそうだったのかと。自分の行いが正しかったのかとな」
深い海を思わせる瞳には、何もかも見透かされているようだった。澄んだ瞳に見つめられ、桃太郎は冷静さを取り戻しつつあった。
何故腹が立ったのか。何故声を荒げたのか。それは、封じようとしていた本心を暴きたてられたからだ。
桃太郎は抵抗をやめた。鬼の棟梁も、それに合わせて、桃太郎への拘束を緩める。
その拍子に桃太郎は、座り込んでしまった。合わせるように棟梁も座る。
「私は、人ではないのだと思う。桃の実から生まれた人に良く似た形、人ならざる者だ」
「噂では聞いておったが、桃から生まれたという話は誠じゃったか。」
「お前達の言う倭人と比較しての話になるが、人より速く動くことができたし、剣で負けることはなかった。そういうこともあって、人を守ることが自分の存在意義だと思った」
桃太郎はそこまで言うと、言葉に詰まってしまった。鬼の棟梁は、ただ黙って桃太郎を見つめる。
「人々が言うから、鬼を悪だと思った。そこに自分の意思はない。何も考えていなかった。人が過ちを犯すはずがないと思っていたから」
白磁のような頬が桃色に色づく。黒曜石のような瞳に、涙の膜が覆われた。
「私は、欲に駆られた獣の片棒を担ぎ、平穏な生活を送っていた貴方達の暮らしを壊してしまった!私は外道の行いをしてしまった!」
桃色に染まった頬を、雫が伝う。瑞々しい水果のようなそこに鬼の棟梁が触れる。
涙を拭うつもりで触れたつもりだったが、桃太郎の目から、大粒の涙が流れ、止まることを知らない。
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