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第7話
「許されるとは思っていない。私の命をもってしても、償いきれるか、わからない」
紅顔は涙に濡れ、あどけなさが残るその美貌はより輝きを増した。桃太郎は鬼の命を奪っている。
罪を購うのであれば、同等の価値のあるものを差し出す必要がある。
「私は貴方の仲間を殺した。貴方には、仇を討つ権利がある。生かすも殺すも貴方次第だ」
ある意味殺し文句を言われ、鬼の棟梁は黙り込んだ。
正確に言えば、殺し文句にも言葉が詰まったが、何より棟梁は気がついてしまった。自分達の周囲に、野次馬が集まっていることに。
桃太郎は悲しみの底にいるため気がついていない様子だが、ばっちり見られている。見られている事を知ってしまったら憤死しかねない。
「棟梁が桃太郎に膝をつかせた!」
「行け!棟梁そのまま組み敷け!」
物凄くやりづらい。
何より、嘆き悲しむ美しい若者を公衆の面前に晒すのも、忍びない。
「儂の屋敷に来るか?茶くらい出すぞ」
外野からその泣き顔が見えないよう、纏っていた外套をかけ、語りかける。
桃太郎はその問いに黙って頷いた。その様に棟梁は軽く笑い、外套越しに頭をポンと叩いてやった。
桃太郎を案内する時、棟梁は野次馬に向けて「騒ぐな」と目線で合図した。それを機に鬼達は静かになったが、桃太郎を誘導するなか、誰かが小声で「桃太郎容疑者が護送されます」と瓦版でよく見る言い回しをしたのに、鬼の棟梁は思わず肩を震わせて笑いを堪えた。頭から外套を被せたのは下策だったかと反省する。
笑いを悟られぬよう鬼の棟梁は、屋敷へ桃太郎を連れ帰る。客間に座らせ、使用人に茶の準備をさせた。使用人の老婆は桃太郎の姿を見てハッとしたが、泣き明かしたその顔を見て哀れに思ったのか、「ゆっくりしておいき」とだけ声をかけて立ち去った。
養母の入れる茶とは異なるが、丸みのある暖かな甘さに、桃太郎の表情は綻んだ。
先程までは悲しみ故の紅顔であったが、その意味合いは薄れている。
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