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第8話

その様に、棟梁は何だか暖かい気持ちになるのを感じた。 「やはり私は罪を犯したのだ。無知という罪だ。ただただ、人の言うことを鵜呑みにし、刃を奮った。そこに大義はない。ただの人殺しだ」 冷静さを取り戻したが、桃太郎の判断は変わらなかった。 「お主は、己が行いの正当化はせんのか。鬼ヶ島の財の中には、間違いなく倭人から奪った物もあった。『倭人の宝を取り戻す』という正当な理由はあるぞ」 「倭人の宝は貴方が奪い取ったのか」 「儂は略奪をしておらん。だが、これまでに宝を狙い、島を訪れた倭人を殺めたことはある。その点ではお主と大差ないと言えるじゃろう」  桃太郎は、腑に落ちないと言った表情で鬼の棟梁を見つめる。鬼の棟梁は、どうしたものかと頭を掻きながら続けた。 「確かにお主がしたことは、簒奪者と言えるのかもしれん。じゃがな、儂らが全面的に被害者かと言えば、そうではない。それゆえ、儂はお前を外道と謗ることは、せん。」 「私を許すというのか」 「許す……とはまた違うのだろうが、儂はお主を責める立場にはないということじゃ」 「しかし」 「まずは、物事をあらゆる面から捉えて見よ。お主はこれまで、一面的な捉え方をしておったようじゃ」  何か言いたそうにした桃太郎の湯飲みに使用人が茶を注いだ。注がれたものを飲まなければと思ったのだろうか。語るのを後にして、桃太郎は茶に舌鼓を打つ。 「それにな、儂は感謝しておるのじゃ。鬼ヶ島の棟梁を殺めなかったお主にな」 「それは、誰も棟梁の首を求めなかったゆえ。意味のない殺生は私自身望むところではないし、棟梁である貴方の命を奪えば、報復の恐れもあると思ったのだ」 「お主がそれを分かっているのであれば、それでよい。儂の父は、倭人に討たれてな。仇討ちはするなと抑えるのが大変であった。今はその者も年老い、鬼を狩るのはやめて、山で柴を刈っているそうだが……」  ふと、養父の顔が浮かぶ。老年の養父が桃太郎を養うことができたのは、かつて都で用心棒のようなことをしていたからだと聞いていた。また、桃太郎の剣技の師は、養父であるが、それ以上は考えないことにした。

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