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第9話

「物事をあらゆる面から捉えるか……」  これまで、倭人を善なるものとして捉え、鬼を悪なるものと認識していたが、本当はそうとも言い切れないのかもしれない。倭人も己を守るために嘘をつき、鬼も誰かを慈しむ心を持っている。それを知るためにすべきことが桃太郎には分かった。 「鬼の棟梁、貴方に頼みがある」 「なんじゃ。命を差し出すというのは無しじゃぞ。そんなことをしたら、今度こそ儂の命が危うくなる」 「少しの間でよい。私をこの島に置いてくれないか」  鬼の棟梁は、飲んでいた茶を吹き出しそうになった。鬼の棟梁がむせている間に、桃太郎は真横まで近づいてきた。遠目では漆黒に思われた瞳が、深い茶色であったと気が付かせる程に近い距離だった。 「ここで、何をするつもりじゃ」 「私はまだ、鬼のことをよく知らぬ。倭人より教え込まれた悪なる者という認識も抜けぬ。だから、貴方達と触れ合うことで、その認識を改めたい」 「触れ合う……」 「物事をあらゆる面から捉えるべきだと貴方も言ったではないか」  身を近づけるだけでは飽き足らず、桃太郎は身を乗り出し、その手を鬼の棟梁の肩に当てた。剣士特有の豆ができた硬い手ではあるが、それよりもその小ささに棟梁は驚く。 「桃太郎、お主はいくつになる」 「突然どうしたのだ。私は、16歳になる。といっても、養父母に拾われてからの年数なので、正確なところは分からないのだがな」  鬼の棟梁はしまったと内心舌打ちした。少年が人生経験を積むことは悪いことではない。自身と同族の子がそうしたいと言ったなら、喜んで受け入れたことだろう。  しかし、倭人である桃太郎は、鬼達と比べるとどうしても華奢な印象を受ける。桃太郎が16と言ったことも、鬼の棟梁には信じられなかった。鬼の子と比較すると13、14そこらにしか見えなかったのだ。  鬼ヶ島の中には、倭人の少年を愛でる者がいる。幼く見える顔立ちに華奢な体格、それでいて閨で見せる姿は艶やかで貪欲という下世話な話を聞いた。

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