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第10話
桃太郎をこの島に住まわせるということは、羊を狼の群れに放つことに等しかった。桃太郎の腕があれば、返り討ちにできるだろう。しかし、相手が複数だった場合は、押し切られ、無理やり手籠めにされるという事態が発生するのではないか。それは、この島の棟梁として見過ごすことはできないと鬼の棟梁は思った。
陶器のような滑らかな肌に血色の良い頬と唇、切れ長の瞳を睫毛が美しく縁どっている。豊かな黒髪を一つに結わえているが、首筋にはほんの少し残った髪の毛が垂れている。そして、どこからともなく桃のような甘い香りが漂っている。
あの一騎打ちで自身が後れを取った理由に今更ながら棟梁は気がついた。
あの時から魅せられていたのだ。この少年に。
この少年が、自分自身の答えを見つけるまで、守るのが当面の仕事となるのだろう。
「お主が満足するまで、ここにおればよい。ただ、お主を快く思っておらぬ者がいるのも事実じゃ。しばらくは儂の監視下に置くが、それでも良いか」
「……!感謝する」
桃太郎は喜びのあまり、鬼の棟梁へ抱き着いた。元来は人懐っこい気性の桃太郎であるが、敵同士ということもあり、棟梁の前ではその鳴りは潜めていた。凛とした剣士としての一面、憂い悩む少年としての一面しか知らなかった棟梁には、この行動は予測できなかった。
「っ……」
「どうした?病か?心の臓が早鐘のようだぞ」
「お主、他の者にはこういう真似はするな」
「何故だ?」
「とにかく、やめておけ」
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