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18※
「ぅ、ぐ、ぅ……ッ」
口の中を弄られ、舌を絡め取られる。根本から絡めたそこを引き摺り出され、逃れようとすれば思いっきり歯を立てられる。神経が集まったそこに鋭い歯を立てられ、全身が跳ね上がった。痛みを感じる余裕もなかった。大量に溢れる血を、リューグは音を立て直接舌から吸い出すのだ。
「ッ、ん゛、ぅッぐ、ぅッ!」
熱い。傷口が焼けるようだ。それ以上に、痛みよりも甘い感覚を覚える自分の体が理解できなかった。リューグの体質のせいだとしても、体に歯を立てられてるのだ。自分の異変が恐ろしく、現状を飲み込めない。
「ッ、うぅッ、ぅ、く、ぁ……ッ!」
溢れた血が唇から溢れる。それすらも勿体無いというかのようにリューグは舌を這わせ、舐めとった。
「あんた、そういう顔も出来るんだ。……いいじゃん、色っぽくて俺、好きだよ」
そう言って、リューグは俺の制服を脱がそうとする。本気で全身の血を抜く勢いのリューグが怖くて、俺は身を攀じるが拘束する手はびくともしない。
「だから、そんなに怖がらなくてもいいって。俺あんた殺さないし。だってここであんた殺したら、また次の人間来るまで我慢しなきゃなんないじゃん?……それなら、死なないギリギリまで飲んでまた血作ってもらった方がいいし」
「っ、ぅ……そ……」
「……あ、バレた?別にあんたが死んでも蘇生させるからまあいいかなとは思ってる。……けど、やっぱり、生きてる人間が一番旨いよ」
「ほら、イナミも飲んでみる?」と、リューグは俺の血で汚れた唇を重ねてくる。先程の吸血行為とは違う、口移し。唾液を飲ませるように俺の血液ごと舌で喉奥へと追いやるリューグに、俺は、血の気が引く。具合が悪くなる。美味しいわけがない。独特の鉄の匂いが鼻先まで突き抜け、強い目眩を覚えた。
吐き出したいのに、思うように喉が締められずに奥まで流し込まれる。吐き気が込み上げてきたが、それすらもリューグに飲まれた。
「っ、ふ、ん、……んん……ッ」
舌を絡め取られ、何度も吸われ、噛まれ、血を求めるかのように深く口を付けられる。頭がふわふわして、何も考えられなくなっていた。早く、黒羽のところに戻らないと。心配した黒羽が何するか分からない。そう思うのに、思うように動かない体に腹が立つ。
「っ、……ん、……イナミ……可愛い」
まるで嬉しくない。なのに、耳元で囁かれれば、体がぴくりと反応した。男に、それもほぼ初対面の相手に中身のない愛を囁かれたところで嬉しいはずがない。なのに、吹き掛かる吐息に、体が反応してしまうのだ。
腰に回された指先が、制服の裾を持ち上げ、するりとシャツの中へと忍び込む。そのまま背筋をつ、となぞられれば、全身が蕩けるように甘く疼いた。汗が、止まらない。
「……中でも一番美味いのは、快感に溺れる人間の血だよ」
「今のあんたみたいな子」とそう、笑うリューグは俺の制服を思いっきりたくし上げる。剥き出しになる腹部に、リューグは臍の窪みに指を這わせ、その周囲を撫でた。ただ指の腹で撫でられてる。それなのに、まるで性器を直接触られてるかのような程の直接的な刺激に腰が大きく震えた。
「っ、や、めろ……っ、や、リューグ……ッ」
「……イナミも気持ちいいこと好きだろ?俺も好きだし、いいじゃん。お互い幸せでさ」
「っ、や、ッめ、ろ……ってば……」
強く、もっと、大きな声で、黒羽を呼ばないと。そう思うのに、舌先がうまく動かない。口の中は血で溢れ、喋るたびに血が垂れそうになり、リューグがそれを舐めるのだ。
窪みに押し当てられた指は、ぐりぐりと円をなぞるように動き出す。その度に背筋に得体の知れないものが走り、無意識のうちに体が仰け反った。
「っ、ぅ、ッく、ぅ……ッ!」
熱い。熱が、リューグの触れた箇所に集まる。焼けるような程のそれは下腹部でぐるぐると回り、次第に、四肢から力が抜け落ちそうになる。膨らみ始める自分の下腹部が目に入り、絶望した。たかが臍を触られただけで勃起することが信じられなくて、恥ずかしくて堪らなかった。
リューグは、垂れる血を舐め取り、微笑む。「甘くなってきた」そう、うっとりと目を細めて。
制服の上から下腹部を触れられ、腰が抜けそうになった。咄嗟に腰を引けば、そのまま壁にぶつかってしまう。リューグはお構いなしに勃起したそこを衣類の上からぐにっと鷲掴む。
「っ、やッ、ぁ、う、……く……ッ!」
遠慮なく揉み扱かれ、衣類の中、張り詰めたそこに息ごと詰まりそうだった。イキたいのに、布が邪魔してもどかしい。えぐるような刺激に、視界が滲む。自分で触ることもベルトを緩めることもできないのが余計苦痛だった。
息が上がる。下着の中で濡れた音が響き始め、それがリューグにも聞こえてるのではないかと思うと血の気が引いた。
「っ、く、ろは……っ」
「クロハ?……ああ、あのオッサンね。安心しろよ、ここで幾ら声上げても外には聞こえないし、誰も邪魔しにこないから」
「……は……ッ?」
「試してみる?」
そう言って、リューグは俺のベルトを緩める。ウエストを緩められ、まさか、と血の気が引いたとき。先走りで濡れた下着の中に躊躇いなくその手を突っ込んだ。次の瞬間、反り返ったそこを握り締められ、息を飲む。
「待っ……」
待って、と言い掛けたとき。「やだ」とリューグは底意地の悪い笑みを浮かべ、そして、上下し始める。
通常時ならば萎えるだろう。だって男の手だ。気持ちよさ云々よりも、恐怖が大きくなる。そのはずなのに、絡みつく指、掌へと吸い付くような感触に、全身が震える。
「ぅ、あッ、ぁ、待っ、待って、やッ、ぁ、あぁッ!」
うそだ、嘘だろ、まじか、こんなこと。
勃起した性器は萎えるどころかリューグに扱かれ更に反応し、開いた喉の奥からは自分のものとは思えない声が溢れる。嫌だ、こんなの、無理だ。そう思うのに、口が塞げない。閉じることも儘ならず、開っぱなしのそこからはリューグの手コキに合わせて情けない声が洩れた。
自分の手とは違う。長い指先で先走りで濡れた尿道口を穿られれば、どっと全身の穴と言う穴から汗が吹き出す。熱い。気持ちよくて、頭がどうにかなりそうだった。
「りゅ……ぐ……ッ、やめ、ッろ、ぉ……」
「っ、イナミ……すっごい、美味しそう……」
「っ、や、ぁ、く……ッ、うぅ……ッ!」
抱き寄せられ、首筋に牙を立てられる。自身を扱かれながら血を吸われるなんてこと、当たり前だが経験ない俺にとっては感じたこともないもので、計り知れない。腰がガクガクと震え、立つことも儘ならなかった。
力が入らない体をリューグに支えられながら、血を吸われる。抵抗することもできず、ただ摂取される。それで何も感じられなくなった方が遥かにましだ。
けれど、止まらないどころか激しさを増す下腹部の愛撫に、意識は全身をぐるぐると回り、自分がどうなってるのかすらわからなかった。吐き出す息すら熱くて。
首元、何度も角度を変えては皮膚を舐め、味わうリューグは吸血行為に夢中になっていた。
「……はぁ……っ、ん、イナミ……可愛い……イナミ……」
可愛いと言われる度に心臓に何かが刻まれるような感覚を覚えた。同時にどろりとした精液が吐き出され、掌でそれを受け止めたリューグは躊躇いなくそれを絡め取り、舌を這わせる。「イナミの味がする」そう、無邪気に笑うのだ。
「……も、やめろ……まじで、これ以上は……ッ」
「ハマっちゃいそう?」
そんなわけない、と思うのに。この目に見据えられると思うように思考が働かなくなるのだ。
俺から手を離したリューグ。支えを失い、床の上に体が落ちる。逃げないと、と、咄嗟に四つん這いになって散らかった床の上、力の入らない体で這いずったとき。
「こら、ダメだって、逃げたら。……俺の頼み、聞いてくれるんだろ?」
リューグに捕まった。
背後から抱き締められ、血の気が引く。
腰を押し付けられ、股の間、嫌な感触に心臓が跳ね上がった。
このままでは、本当に、死ぬ。逃げなければ、その一心で、制服の内ポケットに手を伸ばす。そして、懐中時計を探り当てたときだ。
「なにしてんの?」
念じるよりも先に、シャツの中、滑り込んできたリューグの手に懐中時計を奪われた。
「っ、かえ、せよ……」
「……ん?この印って……」
そして、リューグが何かを言い掛けたときだった。懐中時計を握ったリューグの手が黒い炎に包まれる。
「ッ、な……」
リューグが燃やしたのかと思ったが、そうではないらしい。顔を引き攣らせたリューグの手から懐中時計が落ちる。俺は、躊躇いなくそれを受け止めた。
「……っ、くろ、はさん……ッ助けて……」
そう、口にしたときだった。
音が、消えた。異変は、音だけではない。まず、リューグが動かない。リューグの手の炎も、窓の外の鳥の形した魔物たちも、何もかもが静止していた。……俺を除いて。
「っ、これ……は……」
何が起こったのか、理解するのに時間は掛からなかった。懐中時計を開ければ、その秒針は固まっていた。
時間が停まっている。
どういう原理かは知らない。けれど、逃げるなら今しかない。ろくに力の入らない体を動かし、リューグから離れる。そのまま部屋から出ようとしたら、ドアノブの部分に蔦が絡まっていることに気付いた。蔦を剥がさなければ扉が開かないらしい。出入り口はそこしか見当たらない。指で必死に蔦を引き剥がすが、針金のように硬いそれはちょっとやそっとでは外れない。
リューグが言っていたのはこのことだったか。
体当たりしたところで破れるはずがない。
「っ、くそ……」
どうしたらいいんだ。そう、辺りを見渡したときだ。
棚の中、ドクロマークが書かれた瓶を見つける。絶対に使うな……そういう意味なのだろうか。中には真っ黒なおどろおどろしい液体が入ってるようだ。魔界の劇薬などどんな効果か分からない。けれど、何もしないよりかは、ましだ。ヤケクソになって、その瓶を掴む。俺は出来る限り扉から離れ、そのままそれを扉に向かって投げつけた。瞬間、甲高い音ともに小瓶は割れ、中の液体が扉にまともにぶつかった。
けれど、扉が吹き飛ぶわけでも溶けるわけでも燃えるわけでもはたまたドアノブの蔓が消えるわけでもなかった。
それどころか、少しだけ懐かしい匂いがするだけで。
つまり、効果なし。
そのときだ。
時計の針がかちりと進む音が聴こえた。
「あれ、イナミ、いつの間に……」
背後でリューグが動き出した。まずい、と振り返ったときだった。
「う゛ッ!!」
いきなり、リューグは鼻と口元を抑える。その顔色は見たことないくらい青褪めていて。
「っ、お前、何をした……ッ!!」
見たこともない血相のリューグ。もしかして今投げた液体のせいか?と思ったが、どうやら辺りのようだ。リューグは部屋の奥へと後ずさる。扉付近にいる俺に詰め寄ろうとしないのだ。
足元に転がった小瓶に気付いたのか、リューグは更に青ざめる。
「……ッ、人間のくせに……」
そして、次の瞬間、リューグを紫色の霧が包み込む。何をするつもりなのかと身構えたが、攻撃がくることはなかった。霧散し、消えたリューグ。気付けば、ドアノブの蔦も消え失せていた。
……っ、助かった、のか?
まだ確信が持てず、恐る恐るドアノブに触れる。すると、今度はすんなりと扉が開いた。
そして、
「っ、伊波様?!」
すぐ目の前には黒羽がいた。青褪めた黒羽は、現れた俺を見るなりぎょっとする。
「伊波様、この傷は……ッ!血が……!……って、うッ……この匂いは……」
リューグ同様顔を顰めた黒羽だったが、それでも構わず、転びそうになる俺を抱き留めてくれる。
「申し訳ございません、伊波様、助けると言っておきながら、こんな……」
今にも泣きそうな顔をする黒羽を見て、心底ほっとする。助かったのだと。一まずは。
「……黒羽さん」
「……はい」
「……そんなに俺、臭い?」
「……そうですね、訓練されていないものでしたら耐えられないでしょう」
……なるほど、慣れていない人にはニンニクの匂いも猛毒なのか。ラーメン屋でニンニクラーメン食いまくっててよかった。
「……伊波様、あの男は……」
怒りを抑えてるのだろうが、滲み出るそれは肌に突き刺さるほどだった。問いかけてくる黒羽に俺は「どっかに行った」とだけ答えた。すぐに黒羽は後を追おうとしたが、俺の状態に気付いたのか、それをぐっと堪え、「すぐに手当をしましょう」と俺の肩を支えてくれた。
ただ、支えてくれただけにも関わらず、腰が大きく震える。恥ずかしくなって「一人で歩けるから」と黒羽に申し出れば心配そうな顔をしながらも、渋々黒羽は「分かりました」と俺から手を離した。
「……取り敢えず、ここを離れましょう。……ここでは目立ちます」
いつもの業務モード。けれど、今の俺にはその距離感が丁度良い。
黒羽には一人で歩けるなんて言ったものの、正直、素直に甘えておけばよかったと後悔した。
壁伝えに歩くが、どこもかしこが過敏になった今、全身が微かな摩擦に対しても反応してしまう。
それ以上に、血が抜けて、足元が。
「……伊波様!」
足がもつれてそうになったとき、黒羽に抱き止められる。
「っ、すみません……」
「……っ、伊波様、失礼します」
「っ、く、ろはさん……待っ……わ……ッ」
腕を掴まれ、肩を抱かれる。あまり触れないように気を付けてくれているのか、接触は少ない。「すみません、少しだけ我慢してください」そう、黒羽はそっと耳打ちした。
体重を預けるような姿勢のお陰が、負担が少なくなり歩きやすくなる。というよりも殆ど黒羽に運ばれてるようなものだ。申し訳ないが、助かったというのが本音だ。
「……詳しい話は後から聞かせていただきます」
怒ってるのだろうか、それもそうだ、黒羽はあれだけ俺に注意しろと言ったのにこの始末だ。怒っても無理ない。
「はい」と答えた声が黒羽に届いたかもわからない。長い通路、すれ違った妖怪たちが何か話していたが今の俺には聞こえなかった。
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