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20※
「あ、いて……って……」
「……」
「え、あ……あの……」
まさか、ではなくともそういうことなのだとわかったが、状況が状況なだけにすんなりと受け入れることができなかった。声が震える。
俺が、黒羽と?そんな、まさか。それは。
「もちろん、無理強いするつもりはありません。けれど、伊波様が辛いと言うのなら……自分は、楽になっていただきたいと、その……」
言葉に詰まる黒羽。薄暗い部屋の中、月明かりで照らされた黒羽の表情はどんどん赤くなる。
黒羽も、自分がなにを言ってるのか理解したのだろう。
固まる俺と、その沈黙に耐えきれなくなった黒羽は「申し訳ございません」と言葉を漏らした。
「……私は、伊波様を困らせるつもりでは……出過ぎた真似をしました。今のは、忘れてください」
そう言って、黒羽は「申し訳ございませんでした」ともう一度頭を下げ、そして俺の視線から逃れるように顔を逸した。耳まで朱は広がっている。
黒羽は、俺の事を心配してくれているのだろう。そして、それが最善だとも考えて、恥を忍んで、提案してくれた。
そう思うと、急にじんわりと胸の奥が熱くなる。嬉しい。確かに恥ずかしくもあるが、考えられないが、この状況下だ、黒羽の気遣いはありがたかった。
それに、黒羽ならばきっと、助けてくれる。
そんな確信が、俺にはあった。
「……ッ、……」
トクトクと、脈打つ心臓はどんどんと血液を送り出す。その熱は全身へと広がった。
制服の上からでも分かる、逞しい背中。俺なんかとは比にもならない、鍛えたあげられた無駄のない背中に俺はそっと手を伸ばした。指先が触れたとき、驚いた顔をした黒羽がこちらを振り向いた。
「っ、伊波様」
「……黒羽さん、っ、その……あの……」
熱い。喉が酷く乾くようだった。汗が流れ落ちる。
黒羽も、恥ずかしいのを堪えてくれたんだ。それなら、俺も、と、ぐっと拳を握り締める。
「……お願いしても、いいですか?」
魔物の仕業でこうなったのなら、魔物に頼んだ方が早い。
頭ではいくらでも言い訳を並べるが、俺が黒羽に頼んだことはつまりは、そういうことだ。信用できる黒羽ではなければ、絶対、死んでもそんなことを口にできないだろう。
「……よろしいのですか?」
固唾を飲んだ黒羽はそう、こわごわと俺に再確認してくる。
ここまできて、引くことはできない。それに、このままでいるのが辛いのは事実だ。
俺は、応える代わりに小さく頷く。
黒羽は、少しだけ考え、それからゆっくりと口を開いた。
「……辛くなったらいつでも言ってください。すぐに止めますので」
視界は黒で塗り潰された。
『私の姿など、見えない方がいいでしょう』
そう、黒羽は黒布を取り出して俺の視界を奪ったのだ。
黒羽なりの配慮なのだろうが、何も見えないというのは結構不安だった。
椅子に腰を掛けた黒羽の膝の上、背後から抱き抱えられる座らせられる。
体勢が体勢なだけにすぐ傍に黒羽の存在を感じることが出来るだけましだったが、それでも、真っ黒な視界の中、腹部に這わされた無骨な手の感触に驚いてしまう。
「っ、……っ、は……ッ」
緩められる制服。目が見えない分、その指の動きに全神経が集中する。
下着の中、既に濡れたそこに指を挿し込まれ、息が止まりそうになる。黒羽は無言のまま、硬くなっていた性器に触れる。最初は優しく、触れる。それから芯を持ち始めたそこを軽く持ち上げるように指で挟んだ。
「……っ、……」
黒羽の息が、首筋に微かに吹き掛かる。
熱い。熱くて、溶けてしまいそうだ。
そのままゆっくりと、あくまで俺の反応を探るように手を動かし始める黒羽。太く、硬い指先とは違うその腫れ物を触るかのような優しい愛撫がもどかしくて、くすぐったさすら覚えた。
「っ、ぅ、ふ……ッ、く……」
唇を噛み、息を殺す。くちゅくちゅと濡れた音が真っ黒な視界の中、響いた。
既に何度も射精し、過敏になっていたそこにはちょっとの刺激でも俺には強すぎて。
身を攀じる。仰け反る体ごと抱き締めた黒羽は、大きな掌で俺自身を包み込み、全体を刺激する。力の差を考えれば、握り潰されてもおかしくはない。それでも、俺を壊さないようにと気をつけてるのだろう。
手のひらから黒羽の緊張が伝わってくるようだった。
「っん、ぁ、ッあ、ふ……ッ!」
裏筋をなぞる指の腹に、息があがる。背筋に得体の知れないものが走る。腰が震え、爪先にぐっと力が篭った。やり場のない快感に、堪らず黒羽の腕を抱きしめていた。
そしてすぐに、糸が切れたように勃起したそこから少量の液体がどぷりと溢れた。
「は……ッ、はーッ……」
射精感以上の疲労感に、思わず俺は脱力した。
リューグとは違う、優しい手。
気持ちよかった、と、考えるのはいけないことなのだろうか。
「く、ろはさん……っ」
そう名前を呼んだとき、ふいに髪になにかが触れた。
撫でられた、のだろうか。
そっと精液を拭われたとき、体がぴくりと震えた。
「ん……ッ」
達したばかりにも関わらず、再び頭を擡げ始めるのが分かった。
気持ちいいのに、満足するどころか干上がった土に水を掛けるかのようにどんどん水を欲しがってしまうのだ。
まるで、沼に脚を取られたかのような。
「……ッ、ん、ぅ……ッ」
黒羽は、すぐに答えてくれる。濡れた精液を塗り込むように、指で掬い、全体を濡らす黒羽の手に腰が揺れる。
品のない水音が響く。あっという間に硬く腫れる性器に、黒羽は根本から亀頭まで包み込むように扱く。
「……っ、ぁ、あ……ッ!」
開いた口、その喉奥から、自分のものとは思えない声が漏れる。競り上がってくる甘い熱。けれど、それとは裏腹に腹の奥がぎゅっと締まって、物欲しくなるのだ。
気持ちいいのに、物足りない。それがなんなのかすら分からないが、焦れったくて、息苦しい。
「……っ、黒羽、さん……」
名前を呼ぶ。応える代わりに、黒羽は、片方の手で俺の顎の下を撫でた。頬、首筋へと、ゆっくりと、確かめるように這わされる指先すら気持ちよくて。
「っ、は、……ッ」
イキそう……。
熱で霞んだ視界の中、ぼんやりとそんなことを考えながら背後の黒羽に凭れかかったとき。腰に、硬い感触が当たる。
すぐに、それがなんなのか分かった。
驚いたが、黒羽も、少なくとも嫌な気持ちになっていないということにほっとする自分がいて。
同時に、ひょっとして俺は黒羽にとんでもないことをさせてるのではないかと今になって思い始める。
ならば、と暗闇の中、恐る恐る硬くなったそこに触れたとき。
「……っ、いけません」
黒羽は、俺の手首を掴み、止められた。
「貴方は、何もしないでいい」
「……ご自分のことだけを考えてください」押し殺すような声。そう言って、俺の体を抱え直した黒羽はそのまま性器を扱き始めた。
硬くなったそこは既に限界に近い。カリの凹凸部分を指先で引っ掻かれ、呆気もなく達してしまう。ぼたぼたと股を濡らす精液に、恐らくもう色はついていないだろう。
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