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「っ、はッ、ぁ、あッひ、イッ……!」 何度目の絶頂だろうか。最早、玉の中は空になっている。引っ張るような痛みと熱。限界を迎える体とは裏腹に心は満たされない。 達せれば達するほど強く求めてしまう。悪循環。このままでは体がおかしくなっていく。それが、体感で分かる。 萎える隙もなく、反応し始める性器。その熱に絶望する。 「っ、はーッ、はーッ、ぁ……ッ待っ……、んん……ッ!」 黒羽は、勃起し始めるそこに再度手を伸ばす。摩擦で腫れている気がしてならない。敏感になったそこに触れられただけで体が大きく震え、ゆるゆると扱かれれば体は痙攣するみたいに震えた。 「っ、く、ろはさ……ッもっ……」 「もっと」もう無理です、と言おうとした口からは無意識に懇願が洩れていた。 背後の黒羽が息を飲んだような気がした。そして、伸びてきたもう片方の手に腿を掴まれ、大きく開かされる。自分の目では見えないが、恐らく黒羽から見れば下腹部が顕になってるはずだ。顔が熱くなり、慌てて体を攀じるが構わず、黒羽は剥き出しになった下腹部に何かを垂らした。 「っ、ぅ、あ……ッ!」 冷たくも熱くもない、その生温い液体は性器からその奥、お尻の穴にまでたっぷりと掛けられる。 大きく持ち上げられ、垂れるそれを指で絡める黒羽に、息を飲んだ。 「な、に……これ……っ」 「毒ではありません。……ただの、滑りを良くする油です。安心してください」 安心って言われても。 匂いはしないが、正直、下腹部が濡れるのは耐えられたものではない。 とても慣れそうにないが、黒羽の言葉を信じるしかない。その感触に耐えるように息を吐く。黒羽は、液体を指に絡め、濡れそぼった肛門に塗り込む。 「ぁ、っ、え、ちょ……ッ」 ぐぷ、と埋まる指先。驚いて、起き上がりそうになったが、構わず埋め込まれる太い指に体が震えた。 「うっ、そ、嘘……ッ、うそ、指、ゆび……ッ」 入ってきている。 入れるために出来ていない器官を開き、油を塗り込んでいく黒羽に恐怖と不安でいっぱいになる。が、それ以上に、体の奥がぐずぐずと疼くのだ。 あくまで解すように柔らかく中の肉壁を刺激してくる黒羽の指先に、腰が跳ね上がる。逃げたい気持ちとは裏腹に、体はその感覚を待っていたかのように受け入れてしまうから余計混乱してしまう。 「ッ、あ……ぁ……ッ!!」 息を吐く。ぐちゅぐちゅと腹の中で水音が響き、徐々に深いところへと入り込んでくる黒羽の指に中を引っ掻かれれば、えぐるような直接的な快感に全身が泡立つ。 「っ、ふ、ぅ……ッ」 痛みよりも、息苦しさのが強かった。けれど、それ以上に、求めていたその感覚に全てを持って行かれてしまう。 指の腹で内壁を撫であげられるだけで全身の筋肉が弛緩しそうになる。いけない、と指先に力込めるが、太い指で内部を摩擦されるだけで何もかもが吹き飛ぶようで。 「っ、ぁ、くろ、は、さ……、あ……っ、おく、ッぁ、あぁ……ッ!」 開きっぱなしの口から、情けない声が漏れる。油を纏った指が出し入れされるだけで、思考が飛ぶのだ。 動きに合わせて腰が揺れる。黒羽は、俺の唇を撫でた。 「伊波様、呼吸を、息を吸ってください」 「っ、はっ、ぁ、あぁ……っ、ぁ、っ、は……ッ!」 気付けば、黒羽の手に自分の手を重ねていた。もっと。言葉にする余裕もなくて、息を飲んだ黒羽は、それに答えるように俺の体制を変えれば、ぐっと指を奥まで差し込んだ。一瞬、中を押し潰すような圧迫感に息が止まりそうになった。 そしてすぐ、ずるっと指を引き抜かれ、そして奥まで一気に挿し込まれる。摩擦により刺激される内部が痺れ、それを何度も繰り返す内に腰が浮き、性器に、熱が集まる。 「やっ、ぁ、あ……ッくろは、さ……ッ!!」 激しさを増す指に、暗闇の中で響く音すらも次第に大きくなっていく。熱い。苦しい。痛い。……気持ちいい。 「ぁ、ひ……ッ!!」 体内で黒羽の指が曲がった瞬間だった、全身に電流が走る。執拗に体内を責め立てられ、視界が白ばむ。浅くなる呼吸。これ以上はまずい。そう思うけど、背後から拘束された体はびくともしない。大きく脚を開かされ、指で体内をかき回される。恥ずかしさを恥ずかしさと感じる暇もなかった。 全身が震え、開いた口は閉じることもできない。ピストンに堪えられず、黒羽の腕の中、体は痙攣する。 「っ、ぁ、は、ひッ、い……ッ!」 最早堰き止めるものもなかった。喉元まで競り上がっ出来ていた快感は突き抜け、情けない声が口から溢れる。唾液が、止まらない。黒羽は、それでも手を止めなかった。 決壊する。 「やっ、そこ、もっ……!くろは、くろはしゃ、ッ、ぁ、ひッ、ぃ……!っ、イクッ、やだ、ぁ、イッ、ぅ、んぅうッ!」 既に麻痺仕掛けていた時間感覚も既に形無しだった。どれほどの時間が経ったのか、どれほど俺は黒羽に抱かれているのか、何度達したのか、覚えていない。 引き抜かれる指に声が漏れる。 びしょびしょに濡れた下腹部、イッてもイッても終わりがなく、体の方が壊れてしまう。そんな気がしていた。 「っは、はッ……はーッ……ッ、ひ……」 はらりと、目隠しとして巻かれていた布が落ちる。黒に塗りつぶされていた視界に色が戻る。相変わらず薄暗い教室の天井、そして、月明かりに照らされた黒羽。 こちらを見下ろすその顔は翳り、表情は読めない。だからこそ、恐怖を覚えた。 「もっ、むり、くろはさ、むり、おかしくなる、おれ、も、いい、だいじょ、ぶ、大丈夫らから……ッ」 呂律が回らない。舌の根も、渇いていくようだった。 これ以上は、本当に身が持たない。懇願するように黒羽の顔を見上げた、そのとき。唇が重ねられる。 何度目かの口付けだが、状況が状況だ。驚いて、目を見開く。そのとき、鈍い月の明かりに照らされた黒羽の瞳が赤く、光っていた。 「ん、ッ、ぅ、んんッ、ふ……ッ」 嫌な予感がする。背筋に冷たい汗が流れた。 優しく唇を舐められ、震える。腰の奥が重く疼き、俺は、耐えられずに自ら唇を開いた。 「く、ろはさん……っ」 怖い、けれど。 相手が黒羽ならば。 そう、一抹の自殺願望が込み上げてきた。そのときだった。名前に反応するかのように、黒羽の動きが止まった。 と、思ったときだった。 黒羽は、袖口からクナイを取り出した。 「……お許しください」 掠れた声。赤く光っていた瞳が、揺れる。クナイの尖った先端に、間抜けな自分の顔が反射した。 そのときだ。 黒羽の手にしたクナイは、思いっきり黒羽自身の手の甲に深く、突き刺さる。 一瞬、何をしているのか解らなかった。 けれど、黒羽の手の甲から赤黒い液体が溢れ出すのを見て、血の気が引く。 「っ、な、にを」 「……ッく」 呻く黒羽は、躊躇いなくそのクナイを引き抜き、そのままそれを机に突き刺した。ぼたぼたと流れ落ちる血。それに混ざって、黒い靄のようなものが傷口から溢れ出るのを俺は見た。 「く、黒羽さん、血が……ッ」 「己を律することも出来ぬとは情けないことこの上なし……況してや、苦しむ主に欲情に屈するなどとは……ッ!言語道断……ッ!」 言うなり、黒羽は俺を引き離す。呆気に取られる俺に、黒羽は深く頭を下げた。 「……見苦しい姿を晒してしまい申し訳ございません」 「恐らく、貴方が苦しむ原因は私にもあったと思われます」そう顔を上げる黒羽、その目には先程のように赤は宿っていない。いつも通りの黒羽が、そこにいた。 どういう、ことだ。 状況が飲み込めず、半裸のまま放心する俺に、黒羽は苦虫を潰したような顔で、続ける。 「……その、私が伊波様に邪な念を抱いたせいで、恐らく無意識の内に貴方を惑わせてしまった」 「惑わす……って……」 「……貴方を手籠めにするため、理性を奪う呪が働いていたようです」 手籠め。具体的な意味はわからないが、ニュアンスからして黒羽の言いたいことはなんとなくわかった。 言われてみれば、黒羽がクナイを刺してから、先程までの体の奥に溜まっていた熱は軽くなっていた。 「……それって……」 「伊波様のせいではありません。落ち度は、自分は理性を失わないと慢心した私にあります」 申し訳ございません、と深々と頭を下げる黒羽。デジャブ。正直、誘ったのは俺だ。悪いのも、俺だ。黒羽は俺を助けるためにしてくれたのだから、落ち度があるというなら俺だろう。けれど、黒羽はそれを言ったところで自分を許さないだろう。 「……黒羽さん、顔を上げてください」 そう、そっと黒羽さんの肩に触れる。黒羽は、「伊波様」と、叱られた犬みたいな顔をして顔を上げる。 その目は、やっぱり黒い。 「……赤くない……」 「……赤?」 「……さっき、一瞬だけ黒羽さんの目が赤く光ってたんだ……けど、今は普通通りだし……」 「赤、ですか?」 そう言えば、黒羽さんの目が赤くなったことは前にもあったような気がする。あれは、いつだったか……。 「あの、黒羽さん、手は大丈夫ですか?」 こんな状況で、しかも下半身丸出しの男に言われたところでどうなんだと思うが、気にせずにはいられなかった。 目を向ければ、血は止まっていた。滲んでいたように見えた靄も、消えている。 「……この通り、大丈夫です。神経は傷付けていないので、支障もありません」 「そうですか、よかったです」 「……伊波様」 「あの、黒羽さん……ありがとうございました」 そう、黒羽の手に触れる。傷口も、消えていた。 人間離れした治癒力ということか。 きょとんとした黒羽。俺は、なるべく顔に出さないように、口にした。 「それと、すみません……ちょっと上手く手に力が入らなくて……制服着るの、手伝ってもらっていいですか?」 なかったことにするのは出来ないが、お互いに気にしないことにするのが最善だろう。そう判断した俺は、あくまで平常を装いながら黒羽に『お願い』した。 黒羽は少しだけ狼狽えて、そしてすぐに「分かりました」と俺の下着に触れた。恥ずかしいし、顔を見るのも精一杯だが、それを出したらそれこそ黒羽が気にしてしまう。そう思うと、これが唯一俺が出来る黒羽への気遣いだった。 取り敢えず、赤い目の黒羽とリューグには気を付けたほうがいいかもしれない。それと、俺も。 たまに自分を見失いそうになる。魔が射すとは言ったものだ。 俺も、黒羽からクナイをもらっておくべきか。

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