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太いパイプに内臓をグッチャグチャに掻き乱されるような感覚は一晩中続いた。時間の感覚すらない。気を失ってるのか目を覚ましてるのかも判別付かず、ひたすら体を揺さぶられ、文字通り全身を犯された。 俺の下半身はちゃんとついてるのだろうか、そう思いたくなるほどの負荷に感覚は麻痺し、仕舞いには何が何なんのかすら分からないほどの快楽に呑まれ、完全に意識が戻ったのは午前六時を知らせる鐘の音が響いてからだ。 ハッと意識が覚醒する。気がつけば、俺は、いつの間にかに布団に寝かされていた。 寝間着もちゃんと着ていた。けれど、手足にべっとりと張り付いた手の型や爪跡、神経が繋がってるのか疑わしいほどの痺れた下腹部など、確かに昨夜の行為が色濃く残っていた。 昨日、あれから……。 そこまで考えて、顔面に血が集まる。俺は、なんてことを、黒羽さんに、迫るようなことをして、それで……それで……。 全身の倦怠感の次にやってきたのは自己嫌悪の波だ。 そうだ、黒羽さんは……。 そう、起き上がろうとするが指先一つ動かすのも儘ならず、結局目を動かして探したとき、部屋の隅で動かない大きな影を見つけてしまう。 「……」 「く……黒羽さん……」 そう名前を口にした声は酷く枯れていて、自分でも驚く。喉が痛む。声を出しすぎたせいなのはわかっていたが、恥ずかしい。 「……い……っ伊波様、水を……!」 「あ……ありがとう……ございます」 予め目を覚ましたときのために用意してくれていたのか、差し出された湯呑を受け取る。丁度いい温度の白湯は乾いた喉を潤してくれる。 「……申し訳、ございませんでした……伊波様が人の体だということも考えずに、このように無理をさせてしまうなどと……」 「あ、あの……そのことなんですけど……元はといえば俺が黒羽さんにその、誘っ……たのが原因なんで、気にしないでください」 言葉にすると上擦ってしまう。恥ずかしいが、こうはっきりと言わなければ黒羽はずっと引きずってしまうだろう。 そうだ、確かに死にかけたのも事実だけど、ずっと俺は黒羽に忠告されていたはずだ。それを破ったのも俺だし、正直、気持ちよかった、などと言ったらそれこそ黒羽に軽蔑され兼ねない。 けれど、実際にダルさもあったが、肩の荷が降りたような清々しさもあった。悪いものを全部抜かれたような、そんな気分だった。 「分かりました、……伊波様がそういうのなら」 本当にいいのか、という顔だったが俺の言うことは絶対なのだろう。首を縦に振る黒羽にほっとする。 こういった人付き合いで、あまりくよくよ悩んだりするのは得意ではない。それに、嫌でも黒羽とは長い付き合いになるはずだ。……逆にこれ以上後ろめたいことや恥ずかしいこともないだろう。そんな安心感すら覚えるのだ。 ……多分、それはおかしいと言われるだろうけど。 「あの、伊波様……薬屋で薬を調合してもらいました。……人の体のどんな不調にもよく効く万能薬と呼ばれてます。これを飲んだら恐らく、大分楽になるかと」 「ありがとうございます。……粉薬なんですね」 「貴方にはこの形が飲みやすいかと思って粉状のものを用意させました」 続けて渡された薬紙を受け取る。 ……正直昨夜の黒羽は怖かったが、目の前にいるのはいつもの黒羽だ。やっぱり、昨夜のあれは時間帯も大きく関係してるのか。だとすると俺が血迷ったのも時間のせいというのもあるのだろうか……。気を付けなければならない。 思いながら、俺は早速それを飲もうと白湯を口に含み、粉を流し込む。 瞬間、口いっぱいに苦味のような臭みのような得体のしれない味が広がり、目の前が歪む。 「ぅ゛ぶッ!」 「い、伊波様……苦いかもしれませんが我慢して飲み干してください、そうすれば体が楽になりますので……!」 「ん……ぉご……ッ!」 正直吐きたい、今すぐ吐き出したい衝動に駆られる。 が、良薬口に苦しとは言ったもので、息を止めながら俺は必死に喉奥へと流し込む。ヘドロのような味が口に残っていた。 これで効かなかったら苦しみ損だぞ、と思ったが、効果はすぐに現れた。 「……ん、あれ……?」 まずは、喉だ。先程までガラガラだった声が元に戻る。それだけではない。目を冷ましたときは指先一つ動かすのも大変だったのに、指どころか全身が紙のように軽くなり、俺はすくりと立ち上がる。 「す……すっげー……流石魔界の万能薬……!」 「飲んだ直後は筋力強化に身体能力増長の効果も現れるみたいです。……午後にはいつも通りに戻ると思いますので、いくら調子が良くなったとは言えどあまり無理はなさらないで下さい」 「ありがとう、黒羽さん!」 「……いえ、私は当然のことを……」 魔界なんて、と思っていたが思っていたよりも悪くないかもしれない。こういう漫画でしか見なかったような代物を口にでき、それを味わうことができるなんて思わなかった。 ……まあ、半分死んでるんだけどな。 だからだろう、俺は色々忘れていた。万能薬の効果に浮かれ、まるで選ばれし主人公のように調子に乗って(まあ選ばれたのだけれど)、喜んでいた。男、それも人間ですらない物の怪にケツをガン掘りされて射精しまくったことも、ゴリゴリ突かれて中出しされたことも、まあ体痛くないからいいかなと思っていた。 黒羽と一緒にいるとお腹の奥がぽかぽかするのも、あんだけ無茶したせいで体に負担残って微熱状態が続いてるものだと思っていたのだ。 けれど、そうではないと気付いたときには時既に遅し。 強靭な肉体を手に入れるという一時の夢物語もすぐに幕を閉じることになる。

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