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「さっきの地震のせいで檻は壊れてしまったし他に抜け道とか……ってか、脱獄囚出てるならテミッドも黒羽さんも危ないんじゃ……?!」 「大丈夫だって、そんな心配しなくても」 「だから、なんでそんな呑気なことを……っ!」 「牢を抜け出すやつはいても、実際にこの監獄から抜け出せたやつなんか一人もいないんだよ」 「……へ」 「どんなにデカかろうが強かろうが、地上へと出ることは不可能。すぐに捕まえられてもっと重い刑に処されるだけだ」 だから、曜はなんも心配することなんてないよ。と巳亦は笑った。 絶対不可能という言葉に対して俺は全く信用できなかった。だって、ここは何が起こるか分からない魔界だ。けれど、巳亦の自信も揺るぎないもので、新参者であり何も知らない俺はただその言葉を飲み込むことしかできない。 けれど、そうとならば最も安全な場所は地上ということになる。それに、巳亦の言い分からするに地上へ出ることは不可能だということだ。即ちそれは、地下にいる限り安全は保証されないとも取れる。 「じゃあやっぱり早く地上へ戻らないと……!」 「そういうこと」と巳亦は頷く。 やはり他人事感が抜けないが、考えてる暇はなかった。なんとかはしごとかそういうのはないのかと思い、エレベーターがあったそこを見上げようとした瞬間。 地上方面から大量の土砂が降り注いでくる。 「おわっ!!」 間一髪、巳亦に手を引かれて土砂崩れに巻き込まれることはなかったが、地上と繋がる数少ないそこはあっという間に土石流とともに塞がれる。 「み、巳亦……」 「……うーん、ここから出るのは難しそうだな」 「だ、大丈夫なんだよな……?」 「大丈夫だよ。脱獄囚が暴れてるせいで壊れてるだけでその内この道も開通するだろうし」 「まあ、それまでに脱獄囚が捕まればの話だけど」と付け加える巳亦に益々不安になってきた。 というか、本当にテミッドは大丈夫なのだろうか。心配だが、巳亦はこうだし、連絡の取りようもない。 また土砂崩れや落石が起きたら危ないということで、一旦俺達は通路の奥へと移動する。そこでは三人の獄吏たちが何やら話していた。脊髄反射で俺達は扉の影に隠れ、そして獄吏たちの会話を盗み聞くことにした。 『やつはまだ見つからないのか』 『震源地には何かが爆発した跡しかない』 『囮だろう。だがそう遠くへは行ってないないはずだ』 『くまなく探せ。獄長が帰還される前に必ず見つけろ』 『これ以上内部爆破されてはまずい』 『何が何でも最小限の被害に収めろ』 脱獄囚には、死刑を。 そう、声を揃える獄吏に血の気が引く。 それぞれの手には刃の分厚い刀のようなものや銃など物騒なものが握られていた。 それから、すぐにやつらは四方へとバラバラに動き出す。幸い、こちらには気づいていない様子だったが早かれ遅かれ見つかるだろう。 「……なんか、まずそうな雰囲気だったな……」 「……爆発ね」 「……心当たりあるのか?」 「いや、そういうわけじゃないんだ」 そういうわけではないが、何か気になることでもあったのだろうか。珍しく歯切れ悪い巳亦に引っかかる。 「……さっきの爆発は上の階からのようだったし、そこには近づかない方がいいかもしれない」 「上って……黒羽さんがいたところか?」 「階層は違うと思うよ。爆発からして、距離は離れてる」 「……」 「それに、黒羽君なら一人でも大丈夫だろ。ちょっとやそっとじゃくたばらないだろうし」 確かにそれは言えてるが、それはいつもの黒羽ならばの話だ。今はあんなふわふわもこもこの可愛い姿になっている……。けれど、今俺達は自分たちのことも心配しなければならない立場である。 とにかくここは俺よりも土地艦のある巳亦に頼るしかない。 というわけで、他に地上へと通じる出入り口がないか、それを探すためにフロアを移動することになったが、他の獄吏たちは総動員で脱獄囚を追ってるようだ。辺りに獄吏たちの姿はなくなっていた。 扉を開ければ先程のエリアとはまた違う雰囲気の景色が広がっていた。塗装された壁と床。 その通路は他のエリアに比べ天井が低く(それでも人間界では平均的な天井の高さだろうが)、幅も二人が横に並べるほど狭く、長い。真っ直ぐに伸びたそこには疎らに扉が取り付けられてある。 「……ここは……?」 「獄吏たちの移動経路らしい。通常なら入れないはずだけど……どうやらさっきの爆発で錠が外れてしまってるみたいだ」 それは、やばいんじゃないのか……。 心臓がバクバクと高鳴る。見つかったら怒られるんじゃないかと思ったが、巳亦はそんなことつゆほど気にせずドンドン奥へと歩いていく。それどころか。 近くの扉を開けようとする巳亦。いいのかそれは、と驚いたが、すぐに「だめだ、開かないな」と巳亦は残念そうに口にする。 「なあ、勝手に触らない方がいいんじゃないか……?」 「真面目だな、曜は。ここなかなか入れる機会ないんだし、せっかくなんだから見とかないと損だろ」 「損……なのか……?」 「それに、なんか面白いものあるかもしれないし」 ……この人、やっぱりこの状況を楽しんでる。 薄々気付いていたが、巳亦は何か良からぬことを企んでるような気がしてならない。 本当に巳亦についていっていいのか不安になってきたが、ここで一人になる方が危険だ。俺は、ぐっと堪え、巳亦についていくことになったのだが……今思えばここで巳亦をなんとしてでも止めておくべきだったと思う。後悔したところで遅いわけだが。

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