102 / 126
03
用意された自室に踏み入れた瞬間、息を飲んだ。
「す、すごい……!」
どこかの映画のセットみたいなアンティーク調のインテリアで統一された部屋は大家族で暮らしても持て余すほどの広さがある。
お姫様でも住んでいるのかと思うほどの豪華な部屋の中、俺は思わずダッシュで部屋の中へと入ってた。そしてその部屋の奥、巨大なベッドに思わず飛び込もうとして黒羽に捕まった。
「……っ伊波様、はしゃぎ過ぎだ」
「は……っ! ごめん、つい……」
我を失ってしまっていたようだ。
ごめんなさいともう一度謝れば、黒羽はあっさりと手を話してくれる。
「それにしても……どれもこれも使用された形跡はない。今回のために全て新調されたようだ」
「え、こ、これを全部……?」
「伊波様はやんごとなき御方だ。当然のことだろう」
「やんごとなき……」
そうだ、ここ最近のぞんざいな扱いを受けてきたお陰で忘れかけていたが俺は一応親善大使なのだ。
そっとベッドに手を伸ばせば、羽のようにふかふかとしたシーツは俺の手を飲み込むように沈む。
「ふわふわだ……! 黒羽さん、このベッドすごいふわふわだ……!」
「これは希少種の魔鳥の羽毛をふんだんに遣っているようだな」
「テミッド、ほら、すごいぞこれ!」
あまりの感動に、部屋に入るのを躊躇っていたテミッドを呼び寄せれば、やってきたテミッドは恐る恐るベッドに触れる。
そしてびくっとし、すぐに手を離した。
「すごい……ふわふわ、です……っ」
「だろっ?」
暫く二人でベッドの柔らかさを堪能していると、その間に黒羽は部屋の中を見回っていた。
そして一通り確認を終えた黒羽が戻ってくる。
「見たところ危険なものはないようだ」
「も、もう全部見たのか……」
早いな、と関心する反面、あの過保護な黒羽お墨付きの安心安全な空間にほっとする。
それでも黒羽は安心しきるなというのだろうが。
近くのクローゼットには制服が数着掛けられているくらいだ。
テレビやゲームはなさそうだが、そもそも魔界にきてそれらの類を見たことないので存在するかどうかすら怪しい。でもコーラを用意してくれたハウスメイドだ。頼む価値はあるだろう。
それに、もし用意できなかったとしてでもだ。
「ほしいものも大体用意してくれるし、こんな豪華な部屋ならいくらでも居られるなぁ」
「そ、そう……ですね……」
こくり、と頷くテミッド。
黒羽はというとさっきから難しい顔をしている。
もしかして何かまずいことでも言ってしまっただろうか。内心どきっとしながらも「黒羽さん、どうかしましたか」と声を掛ければその鋭い隻眼がこちらを向く。
「……伊波様、先程の話の続きだが暫くの間登校を控えここにいるのは如何か」
「そ……それは、確かに安全だけど……」
さっきのニグレドの話か。
確かにあのときも何やら考えている様子だった。
俺個人としては堂々とサボれてラッキーという反面、授業も受けたいし、もっとこの学園のことを知りたいという気持ちもある。
それに俺の立場上逃げ隠れして勤まるものでもないはずだ。
「でも……それって、いいのかな」
「無論だ、貴方の身に何かがある方が余程困る」
「そ、そう言われると……。分かった。一応、アヴィドさんにも相談してみるよ」
自分ばかり守られるのも落ち着かないが、状況が状況だ。
俺一人の我儘で迷惑かけるわけにもいかない。
一番いいのは早くヴァイスが捕まることだろうが……。
それでもこの部屋で一日中遊んで過ごせると考えるとわくわくする自分もいた。現金なものだと思う。
ともだちにシェアしよう!