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「ちょっ、おい、何……」 「その反応……初めてなんだねぇ」 「お、おい……やめろっ、神楽……」  薄々予想していた展開だが、まさかこんないきなり触れてくるとは思わなくて動揺する。俺は、神楽を押し返し、ソファーから降りようとした。が、思いの外力がでない。なんでだ。混乱する頭の中、甘い香りが全身に絡みつくみたいに動きが鈍る。指先に力が入らない。気がつけば、神楽にソファーに押し倒されていた。沈むクッションは相変わらず体を包み込むほど気持ちいい。そりゃそうだ。セックスするためのソファーなのだから。 「……そうだ、ねえ、試してみる?」 「試すって……」  なにを、と言い掛けたところで、神楽は俺の唇にバイブの亀頭部分を押し付ける。「これだよぉ」と、猫のように笑う。くにくにと唇を軽く押し当てられ、口を開かされる。いやだ、と首を振って逃れようとするが、抉じ開けて入ってくるそれは、ズッと口の中へ入ってきて。 「ん、ぅ……ッ!!」 「……ひと目見たときからいいなって思ってたけど……これで処女とか本当、いいねぇ……元君、よくここまで手出されなかったね」 「俺ならすぐ抱いてたよぉ」と、舌を擦るようにバイブを奥まで咥えさせられ、えづく。苦しさよりも、ひんやりとしていたそこが俺の熱を浴び、馴染んでくるのが嫌だった。 「……ッふ……!」  口の中の異物を引き抜こうと神楽の手を掴むが、片方の手でがら空きになった下腹部、腿を撫でられれば、血の気が引く。逃げたい、のに、もみくちゃに体中を触られる。服の裾を持ち上げられ、上半身を剥かれれば、向けられる神楽の視線に汗が滲む。バイブが引き抜かれ、自分の唾液で濡れたそれを見て非常に死にたくなった。 「お前……いい加減に、し……」  しろ。と、言い掛けたときだ。濡れた男性器型のそれが、胸に押し当てられる。乳首に先端部が擦れ、ぎょっとする。やめろ、と身を攀じるが、神楽に両腕を束ねられ、頭上で拘束された。嘘だろ、と、腕を動かそうとするが、強い力で押さえつけられた体はびくととしない。それどころか。 「これさー結構マッサージとかにも使えるんだよねー。肩とか、凝ったところとかに押し付けるんだよ」 「こことか」と、円を描くように乳頭周囲を撫でられ、息を飲む。気持ちよくない、くすぐったい。けれど、バイブのスイッチが入った瞬間、電動するそれを直で押し当てられ、「ぁ」と声が漏れる。神楽の口元が緩むのを見て、血の気が引いた。なんだ、なんだ、これ。全然よくないのに、変だ。 「や、めろ……ッ、おい、馬鹿……ッ!」 「元君って乳首ちっちゃくて可愛いねえ。俺の手で大きくしてあげたくなるなぁ」 「な、にを」  言ってるんだ、この男は。厭らしく動くそれで集中的に胸を刺激され、上半身が跳ね上がる。込み上げてくる嫌悪感。けれど、逃げようとすればするほど潰され、擦られ、まるで性器のように嬲られ続ければ、息が上がる。違和感。腹の奥から徐々に競り上がってくるような違和感に、腰が震える。 「一生懸命勃ってるよ、元君のここ。……かわいいね」  全く嬉しくないし気持ち悪いのに。逃れられない刺激に、腰がむずむずしてくる。手が空いていたら、こいつをぶん殴られたのに。 「っ、まじで、やめてくれ、これ以上は」 「いっちゃいそう?」  首を横に振る。そんなわけない。こんなので射精するはずがない。わかっていたが、それでも、こんなので勃起しそうになっているのも事実だった。最初はただの違和感しかなかったのに、無機物に執拗に責め立てられ、胸の奥が熱くなる。血液が集まり凝るそこを更に愛撫され、射精には繋がらないその快感が余計もどかしくて、吐き気がする。 「……可愛い、元君」  そう蕩けたような顔をして、人の胸に顔を埋める神楽。瞬間、片方の空いた胸をれろりと舐められ、腰が大きく震えた。 「っ、や、めろ」  声が震える。バイブとは違う、熱を孕んだ人間の舌。皮膚を滑り、尖ったそこを執拗に舌先で転がされれば、全身の熱が一度上がるような気がした。下腹部に血液が集中する。やばい、なんだこれ。すげー……気持ち悪い。  考えるよりも先に、体が動いていた。  感じたことのないそれらに堪えられなくなった俺は、がら空きになっていた神楽の下腹部を思いっきり蹴り上げた。 「んギュッ」  到底人の声とは思えないような声とともに、神楽の体は大きく震えた。それから、再びどさりと俺の上へとずり落ちる。  ……咄嗟のことで手加減することを忘れていた。  最終手段をこのような形で使ってしまうのは忍びないが、それでもこいつが悪いのだ。俺はバイブの電源を切り、投げ飛ばした。  不完全燃焼だが、こんな場所、おまけによくも知らない男相手に流されたくもなかった。母親の顔を思い出し、萎えさせる。乱れた衣服を整え、深呼吸を繰り返す。それから、ソファーの上、白目剥いてぐったりしてた神楽の胸倉を掴み上げる。 「おい、起きろよ」  ぺちぺちとその頬を叩けば、俺の声に反応して小さく神楽が反応した。どうやら意識が戻ったようだ。 「は、元君……?」と薄く開いた瞼は、はっきりと俺を捉えると思い出したようだ。がばりと起き上がり、それから股間を抑えながら俺から飛び退いた。 「わああっ、ごめんねぇっ。もうしないから蹴らないで~! 俺の不能になっちゃうよーっ」  どうやらさっきの蹴りが効いたようだ。  正直、俺もやり過ぎたと思ったがこのまま貞操の危機をみすみす見逃すわけにもいかなかったのだ。あまりの怯えっぷりに罪悪感は覚えるものの、こうなればもう余計は手出しはしてこないはずだ。 「神楽の返事次第だな」そう、声をかければ、神楽は不思議そうに小首を傾げた。 「んぇ……俺のお?」 「お前、誰に命令された?」 「誰にって、どーいうこと?」 「他のやつに俺になんかしろとか言われたんじゃないのか?」 「……なんでそう思うのぉ?」 「だってお前、俺のことタイプじゃないだろ。それなのに自分からグイグイくるなんて、誰かに命令されたか別の理由があるとしか思えない」  そう、神楽は元々男よりも女の方が好きだと言っていた。それに、男にしても中性的な男を抱くのが好きなのだ。  俺とは全く似つかわしくない。  そんな神楽が俺を選ぶとなると、相当の理由がなければ納得できなかった。それが、神楽に対する違和感の正体だった。  それに、外部を気にするような発言も見受けられたのは確かだ。誰かと競い合ってるか、唆されたか。……例えば、そう、岩片とか、岩片とか岩片とか岩片とか。ぐるぐる瓶底眼鏡で隠れたセクハラ野郎もとい御主人様の顔を思い浮かべる。  あいつが神楽になにか吹き込んだとしたら、神楽が俺の名前を知っていたことも必要以上に付きまとってきたこともこうして良からぬことをしようとしてきたことも納得がいった。 「すごーい、なんでわかったのー?」 「そりゃ分かるだろ。……途中までまじでビビったけどな」 「えへへ、そう? でも俺、元君は全然抱けるよ。これは本当。だって君、すんごい反応初々しくて興奮するもん」 「そっ……そういうのはいいから、誤魔化すなよ」 「わかったよ。……まあ、元君の言うとおりだよ。俺、かいちょーたちと誰が一番最初に転校生を落とせるかってゲームしててさあ、丁度君らが学園にやってくるの見かけたからからこりゃ先手打っといた方がいいなあって思って後つけてたんだぁ」  うんうん会長たちな、なるほどなるほど。 「…………って、会長たち?」  待った、会長たちってなんだ。岩片絡みじゃないのか。なんだそのゲームは。他にましな遊びは思い付かなかったのか。そしてお前も参加するな。

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