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「え、え、なに手ぇ繋いでんの、ちょ、だめだよぉー! だめだめ! ほら、離して!」
「……」
「あいたっ!」
駆け寄り、俺から彩乃を引き剥がそうとする神楽だったが逆に彩乃に頭を叩かれていた。しかも、子供に対して軽くあしらうようなものだ。
「ううっ……彩乃ちゃん叩くなんて酷いよぉー、もういいもん! ふくかいちょーに言い付けてやる!」
しかし、かなりダメージのなさそうだったが心のダメージはあったらしい。きゃいんきゃいんと吠える神楽がそう能義のことを口にした矢先のことだった。
「呼びましたか?」
すぐ背後から艶かしい男の声が聞こえてきた。ねっとりと絡みつくような低音は一度聞いたら早々忘れられない。振り返ればそこには、ふくかいちょーこと能義有人のドアップがあった。
いや普通に心臓止まる。
「おわっ!!」
「おや、なかなか新鮮な反応ですね。……悪くないですよ」
「あっ、ふくかいちょー! 聞いてよ聞いてよー! 彩乃ちゃんがねぇ、元くんを人気のない場所に連れ込んでそのままあーんなことやこーんなことしようとするんだよぉ。酷いんだよぉ、かっこいい顔してむっつりだし、しかも俺殴られたしい、彩乃ちゃんのこと怒ってよーふくかいちょー」
「おや、いけませんねぇ。書記、不純同性交遊は感心しませんよ」
持ち上げたいのか貶めたいのかよくわからない神楽の言い分(それもかなり脚色されてる)を聞き入れた能義は厭な笑みを浮かべる。二人に責められ、生徒会書紀・彩乃は面倒臭そうに息を吐いた。
「お前らと一緒にするな。こいつに話があるだけだ」
ばっさりと切り捨てるような物言いをするやつだと思った。やはり、生徒会役員だとは思ったが書紀か。神楽よりかはちゃんと仕事をしそうだが、他の連中とはまた違う硬派な雰囲気は取っ付きにくそうだと思った。
「話だってよ、ふくかいちょー」
「そんなわけないでしょう。口実ですよ、口実。思春期の青少年が人気のない場所で二人きりになるなんてあれ以外ありませんよ。いやらしい」
「やだー彩乃ちゃんってば不潔ー! エッチー! ケダモノー!」
好き勝手言い出す二人に彩乃の中の怒りが益々膨れ上がるのが見て取れるようだった。よくもこんなキレたらやばそうな男を煽るようなことできるな。俺なら無理だ。
けれど、もしかしたら彩乃にとっては日常茶飯事なのかもしれない。苛ついたように舌打ちをし、それから、二人を睨みつけた。
「お前らなにか勘違いしてるようだけどな、俺はあれに参加した覚えは……」
『こっち来んじゃねえ! あっち行けこの糞もじゃ!!』
そう彩乃が言いかけたときだった。食堂の外の方からどっかで聞いたことあるような怒鳴り声が聞こえてくる。
何事かと思いきや食堂入り口前、一際目立つ赤茶髪の男、政岡零児とそれに迫る糞もじゃもとい岩片の姿があった。……ていうか、あいつ急にいなくなったと思ったらなに遊んでんだあいつまじふざけんな。
「……参加した覚えはねえ」
言葉を遮られ些か不快そうではあるものの、関わるのは面倒だと判断したようだ。彩乃はそう見なかったことにして続ける。
できるなら俺も見なかったことにしたかったが、糞もじゃもとい岩片を野放しにしておくことはできない。
この学園の秩序と生徒たちの貞操のためにも。
なんとか隙を見て三人の役員たちから離れられないかと思った。が、それも先程までの話だ。
彩乃が言った『参加するつもりはない』というその言葉が引っかかる。それは、つまり。
「おや、おやおやおやおや。一体なにを言い出すかと思えば。口を慎みなさい書記、でなければ貴方のあだ名をプリティー彩乃にしますよ」
言いながら、彩乃に詰め寄った能義は言いながら彩乃の頬をぐりぐりする。彩乃は「やれるもんならやってみろ」と青筋浮かべていたが、いや、違う、そんなことは今どうだっていい。
「……なあ、彩乃、今参加するとかしてないとかってなんの話? もしかしてなんかイベントとかあんの?」
恐らく、彩乃が言っていた参加不参加の話は生徒会のゲームのことだろう。能義の訪問のお陰であのとき神楽から詳しい話を聞き損ねていたが、丁度良い。少し反応を見てみるか。
惚けたフリして彩乃に尋ねれば、横にいた神楽はなに言い出すんだと青褪める。
「ちょっちょっちょっと、は、元くん、なに、え?」
「ほう、あなたも気になるんですか?」
「まあねーなんか楽しそうだし。ゲーム?」
露骨に取り乱す神楽とは対象的に、能義の反応は変わらないものだった。それどころか、こちらの反応を見て楽しんでる気配すらあった。
神楽当人は俺が能義たちにチクると思っているようだ。「ご飯食べようよぉご飯~」「もういいからそういうのはぁ」と話題を逸らそうする神楽があまりにもまとわりついてくるので、俺は『別にバラさらないから』と目配せをする。伝わったかどうかは知らない。
「へえ、あなたもやりたいんですか?」
「面白そうならな。どんなゲームか教えてくれよ」
「好奇心旺盛な方ですね。いいですよ、今夜私の部屋に来てください。手取り足取り教えてあげますよ」
しまった、変な方向に流された。遠回しに喋る気はない、そう拒絶されたようだった。やはり、能義相手に主導権を奪うのは無理そうだ。
それにしても、岩片みたいなこと言うやつだな、と内心顔引き攣らせた矢先だ。
「へえ、有人がサポートしてくれんの? 楽しそうじゃん、俺も混ぜてよ」
背後からぐっと肩を抱かれる。もう、今は耳に馴染んでしまったその軽薄な声。振り返れば、そこには岩片がいた。
というかどいつもこいつもなんで気配消して俺の背後を狙うんだ、どこでそんなスキル覚えるんだ。是非ご教授願いたい。
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