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「あー肉無かったけどまあまあ旨かったな、なあハジメ」
「お前は肉肉言い過ぎなんだよ。俺は結構好きな味だったけど」
「お気に召されたのなら良かったです」
学生寮内、廊下にて。自室に戻る俺たちを、昼間同様部屋まで送ると言い出した能義と話しながら歩いていた。
そして、俺の隣にはくっついてくるように歩く神楽。岩片を警戒しているようだが、どうやらそれ以上に俺たちが気になるようだ。嫌々ついてくる神楽。……こいつも暇なのだろうか。
「そう言えば、お二人は転校前同じ高校だったそうですね」
「ああ、まあな」
どうやらとっくに調べられているようだ。この学校にはプライバシーというものがないのだろうか。隠すのも面倒なので頷く。
「こんな時期に一緒に転校だなんて珍しいですね。一体どういうご関係で?」
まあ、そうなるよな。尋ねてくる能義に、俺はどう答えようか脳を回転させる。一応ここに来る前聞かれたとき用にシミュレーションしておいたのだが肝心なときに役に立たないようだ。いきなり問い掛けられ、なにも考えていなかった俺は言葉に詰まる。
「ハジメは俺の恋人だよ、恋人。卒業したら外国行って結婚すんの」
うん、そうそう恋人コイビト。
……………はい?
「なるほど、恋人ですか。仲良さそうで羨ましい限りですね」
笑みを浮かべたまま凍り付く俺とお化けでも見たような顔をする神楽。
そんな俺たちを他所におおらかな笑みを浮かべる能義と、「羨ましーだろ?」とヘラヘラ笑う岩片。
ちょっと待て、いつから俺たちは付き合い始めたんだ。というか能義もなに普通に受け入れてるんだ。こういうとき突っ込んでくれよ。
「ははは、なに言ってんだ岩片。おもしろい顔しやがってこいつ」
いつものタチが悪い岩片の冗談とわかっているはずなのに何故だろうか、調子狂わされる。そしてこの岩片の言葉に惑わされたのは俺一人ではないようだ。
「え、は、元くん……処女じゃなかったの……? あんなに嫌がってたからてっきり俺処女だと思ってたのに……」
わなわなと顔を青くする神楽は、なんかいきなりまた余計なことを言い出しやがった。信じられないとでも言う神楽に、こっちが信じられないと言いたくなる。
「ということは、やっぱり初めては岩片さんとですか? どちらが突っ込まれてあんあん鳴いているのか興味ありますね。個人的には尾張さん希望ですが」
こいつもこいつでなにを言い出すんだ。
「有人はわかってるなー。あんあん鳴いているのはハジメだよ。でもハジメのケツは俺専用だから興味持つなよ」
お前はもう黙ってろ。
「おや、それは残念です」
「嘘だぁ! 絶対初めてだと思ったのにー」
いや初めてもなにも普通にアナルは許容範囲外だし、そしてさっきからなんで神楽は人の肛門の開通未開通で嘆いてんだ。
「……いや、分かってると思うけどこれ冗談だからな」
岩片なりの笑えない冗談だとわかっていても流石に転校早々彼氏持ちアナル非処女認定なんて辛すぎる。俺のこれからに支障が出る。
岩片と深く関わりすぎた今支障も糞もないが、神楽の話を聞いたからこそ尚更気が抜けない。
「あっ、そうなのぉ? だ、だよねぇ~。元くんがもじゃと付き合ってるなんて、ねぇ」
「もじゃって誰?」
「お前だよ、もじゃ片」
「俺かよ」
自覚なかったのかこいつ。「この野郎ーちょっと垢抜けてるからって調子乗んじゃねーよ」と絡み出す岩片を小突き、止める。
「……おや、冗談でしたか。てっきり私」
「てっきり、なんだよ」
「なんでもありません」
……なんだよ。言えよ。余計もやもやするだろ。
こうして、俺たちはそんな調子でぐだぐだ話ながら自室の前まで戻ってきた。
冗談を冗談だと言えたが、こいつらが百パーセント人の話を聞いているかどうかは怪しかった。特に神楽。岩片がとんでもない嘘をついてからずっと神楽の様子がおかしい、というかよそよそしい。
それはネタバラシをした今でも変わらず、やはり見るからにもっさい岩片とチャラ男の神楽は相容れないなにかがあるのだろうかなんて思ってしまう。
――学生寮、自室前。
「わざわざ送ってくれてありがとな」
「いえ、お安い御用です。なにか困ったときはいつでも頼ってくださって構いませんからね、全力でサポートさせていただきますので」
そう続ける能義に微笑みかけられ、そこまでしなくてもいいと言えず俺は「わかった」とだけ頷く。
「それは下半身の「じゃあ、俺たちはこれで、また今度な!」
能義の発言に食い付いた岩片がまたなんか妙なことを言い出す前にそうさっと別れを切り出した俺は、扉を開け部屋の中に岩片を押し込んだ。
能義たちと別れ、片付いた自室へと戻ってきた俺たち。
「なんだよ、さっきの恋人とかなんとか」
「ああ、あれな。なに、ハジメもしかして真に受けたのかよ。そんなに嬉しかったのか?」
「んなわけないだろ」
「おっ、ハジメが素で返してくるなんて珍しいな」
岩片はそう可笑しそうに笑う。指摘され、墓穴掘った俺はなにも言わずに岩片から視線を逸らした。
「最初から言っといた方がいいだろ、色々避けになるし」
「お前の余計な一言で友達が出来なくなったらどーすんだよ」
「出来なくていいだろ」
即答。なんでもないように言う岩片を目を向ければ、岩片は口許に笑みを浮かべた。
「ハジメは俺の護衛だけしときゃーいいんだよ。まともな青春しようなんて考えんなよ」
分厚いレンズの奥の目は見えない。
けど、確かに岩片が自分を見ていることだけはわかった。
相変わらずのジャイアニズム。どっから沸いてくるのか自信過剰な岩片に今更呆れはしないが、やはりこうきっぱり俺の青春ない宣言されるとクるものがある。
「ハジメ」
「はいはい、わかりましたって。別に、最初からそんなつもりねーし」
ちょっと嘘吐いた。けどま、思うだけならタダだろ。御主人様がこう言ってちゃ、本当に思うだけになりそうだがな。
転校初日、俺たちは生徒会の四人と知り合った。
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