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ep.2 酔狂ゲーム

 翌日。既に制服に着替え終えている岩片に起こされ目を覚ました俺は、寝惚け眼のまま支度をする。  登校初日。  食堂で朝食を済ませた俺たちは、そのまま校舎へ移動した。相変わらず閑散とした校舎内にて。岩片とともに職員室へやってきた俺は、教室の場所を聞くために新しいクラスの担任になるらしい教師を探すことにした。  が、案外早く見つかる。 「おー転校生か」  職員室の奥。扉から顔を出す俺に気が付いたその男は、持っていた煙草を灰皿で潰しながら椅子から立ち上がった。  だらしなく着崩したスーツに、どこぞのホストのような染めた髪。入る場所を間違えたのだろうかと心配になるほどの場違いなその男は、「こっち来い」と軽く顎でしゃくった。なんだか物凄く行きたくない。 「はぁーい!」  そんな俺を他所に、きゃぴきゃぴとはしゃぐ岩片はそのまま職員室に入った。こいつさっきまで「職員室とかまじだるい」とか「お前一人で挨拶しろよ俺待ってるから」とか言ってたくせにイケメン見つけた途端これか。相変わらず節操がない岩片に頭痛を覚えながら、俺は後を追うように職員室に入る。  校舎内、職員室。  煙草の煙が充満したそこに居心地の悪さを覚えながら、俺は岩片が待つホスト教師の元へ向かう。 「岩片と尾張だな。俺はお前らの担任になる宮藤雅己だ」 「へぇーマサミちゃん! よろしくな!」 「ああ、よろしく。せめて雅己先生な」 「よろしく雅己ちゃん」 「お前もか」悪ノリする俺たちに笑みを引きつらせるホスト教師、宮藤雅己はすぐに頬を綻ばせ「まあ、よろしくな」と笑った。  派手な容姿とは裏腹に意外とフレンドリーな教師のようだ。少し安心する。 「じゃあ、早速だけど教室に行くか。教材なんかはまだ用意できてないからクラスのやつらに適当に貸してもらえよ」  まあ、いきなりの転校だったしな。そうなるわな。  宮藤の問い掛けに対し「りょーかい!」と元気よく答える岩片は早速宮藤になついているようだ。  見境ねえななんて思いながら、俺たちは宮藤とともに職員室を出る。 「そう言えばさっきから生徒見かけないんだけど、もしかしてなんかイベントでもやってんの?」  教室へ向かう途中の廊下にて。  岩片にまとわり付かれ、それを引き摺りながら歩く宮藤に先程から気になっていたことを尋ねれば、宮藤は「ん?」とこちらに目を向ける。 「ああ、この時間はいつもこうなんだよ。真面目組はとっくに教室入りしてるだろうしな」 「へー、じゃあ俺らちょーまじめじゃん」 「そうだな、お前らは遅刻寝坊無断欠勤早退しないようないい子のままで居てくれよ」  そう笑いながら言う宮藤に、岩片は「マサミちゃんに頼まれたら断れるわけねーじゃん、俺頑張っちゃう」とぶりぶりしながら宮藤に抱き着く。  あからさまな岩片のスキンシップに対し、宮藤は「おー頑張れ頑張れ」と他人事のように笑った。どうやら同性からのスキンシップに慣れているようだ。顔色一つ変わらない宮藤に尊敬しつつ、岩片が調子に乗り出す前に俺は宮藤から岩片を引き剥がす。  歩きながら宮藤から学校のことについて簡易な説明を受けること暫く。宮藤は一つの教室の前に止まった。 『2ーA』  扉の上のプレートにはそう記入されている。  先程、宮藤からクラス分けについて家柄や能力やらで分けられていると説明を受けたがよく聞いてなかったので忘れた。  どうやら二番目にいいらしく、もう一つ上に『Sクラス』と言うのがあるらしい。  岩片は最初Sクラスに振り分け予定だったらしいが、駄々を捏ねAクラスに落としてもらったようだ。  俺としては是非Sクラスに行ってもらいたいところだったが、こうなったらしょうがない。 「呼んだら入ってこいよ」  そう言い残し、宮藤は教室の扉を開く。そして「うおっ」と小さく声を上げた。 「なんでお前ら朝から全員揃ってんだよ。いつも昼まで来ねーくせに」  こえーよ、と言いながら宮藤は教室に入っていく。  Aクラス前。教室では宮藤がなにやら話していた。廊下に残された俺は、アクビをしながら教室の扉に目を向ける。 「マサミちゃん、イケメンだよな」 「お前本当そればっかだな」 「なんだよ、妬いてんの? かわいいなあハジメは」  そうにやにやと口許を弛ませる岩片に、どっからそんな発想が出てきたんだと呆れる俺。 「お前が男にちょっかいかける度に妬いてたら身ぃ持たねーっての」 「それもそうだな」 「二人とも入ってこい」  不意に、教室の方から宮藤の声が聞こえてくる。  岩片に目を向ければ、既に岩片は教室の中へ入っていた。どんだけ張り切ってるんだ、あいつは。  緊張感を微塵も感じさせない岩片に、なんだかこっちが緊張しそうになりながらも俺は教室に入る。  途端、全身に突き刺さる教室中の視線と小さなざわめき。  視線自体慣れているのであまり気にならなかったが、問題は岩片だ。見た目だけでもあれなこいつがいつ何仕出かすかがただ心配で、俺はなんだか気が気でなかった。

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