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 場所は変わって写真部部室前。  岡部につれられてやってきた俺たちは、案内されるがまま中に入る。 「すげー写真の量だな」  部室に入るなり「うっわなんかイカ臭っ」と声を上げる岩片を他所に俺はキョロキョロと室内を見渡す。  壁を埋め尽くすように一面に貼られた様々な写真。岩片の言う通り、そこには健全な男子高生の自室のような青臭くじっとりとした空気が漂っていた。 「持ち帰るわけにもいかなくて燃やすのも勿体無いという写真などをうちの部では部室飾るようにしてるんです」 「ハメ撮りばっかじゃねーか」 「あ、そこら辺は前の先輩たちのです。ちゃんとこっちに普通のもありますよ」  部屋の中央に置かれたテーブルを避け、そのまま部室の奥へと歩いていく岡部。確かにこれは処分しにくいなとかそれ以前の問題じゃないのかこれはとか色々言いたいことはあったが中々タイプの子の写真もあったので許す。 「岡部は撮ってねーの?」 「俺は撮ったものは持ち帰る派なので」 「へぇ、直人が撮ったハメ撮り見てーな」 「ちっ違いますよ……っ! ハメ撮りなんかにわざわざカメラ使いません!」  岩片の下品なセクハラにじわじわ顔を赤くさせる岡部はそうぶんぶんと首を横に振る。まともな反応だ。安心した。 「動画じゃないと意味ないじゃないですか!」なんか変なこと口走ったように聞こえたけどきっと聞き間違いだな、そうに違いない。 「取り敢えず、パソコンでしたね。こっちです」  そして、何事もなかったかのように落ち着きを取り戻す岡部は奥に取り付けられた扉を開いた。  案内されるがままついていけば、どうやらそこは機材置き場のようだ。そして更にその奥には撮影所になっていて、なかなか本格的だななんて感心せずにはいられない。そんな俺を他所に岡部は機材置き場の近くに置かれたパソコンの元へ歩いていき、そして足を止める。 「ってあれ……? 誰か人が……」  不思議そうな顔をする岡部につられ、パソコン付近に目を向ければ起動したパソコンのそのすぐ側には見覚えのある後ろ姿があった。艶やかな黒髪に細身の背中。岡部の声に反応したそいつは「ん?」とこちらを振り返る。 「……おや、あなた方は岩片さんと愉快な仲間たちではございませんか」  生徒会副会長、能義有人だ。  愉快な仲間たちに纏められたのはなかなか癪だったが突っ込みどころはそこではない。 「能義? なんでお前ここに……」 「ちょっと機材を借りに来たんですよ」 「もしかしてあなた方もですか?」能義も能義でまさかこんなところで遭遇するとは思っていなかったようだ。  そう尋ねてくる能義に対し、岩片は「まあな!」と元気よく返す。ほんと返事だけはいいな、こいつ。 「って、あの、副会長……ここって関係者以外立ち入り禁止なんですが……」  そんな岩片とは対照的に呆れたような顔をする岡部は恐る恐る指摘する。  それに対し、能義は「まあ、そう細かいことはお気になさらず」と微笑んだ。こいつの場合お気になさらすぎだ。 「ほら、パソコンを使いたいのでしょう」 「ああ、プリンターなら使用中ですのでお待ちください」微笑む能義は笑顔のままそう続ける。 「プリンター?」能義の言葉が気になり、言いながら俺はパソコンの側に置いてあったその機械もといプリンターに目を向けた。  能義の言う通りプリンターは起動中で、そこからはポスターサイズに引き延ばされた一枚の写真が出てくる。  なにを印刷しているのだろうか。そんな好奇心に擽られ、そのまま覗き込んだ俺は出てくるその写真に凍り付く。  どこか見覚えのある建物の室内。露出した足元。プリンターからは徐々に上半身が現れ、下腹部を隠すように制服を抱えるそれはどっからどう見ても数時間前の俺だ。 「なに? それもハメ撮り?」 「いいえ、これは二年A組のOさんの露出プレイ中激写した生写真だそうで……」  隣から覗き込んでくる岩片に対しそうなんでもないように答える能義。胸元まで現れたところで我慢出来なくなった俺は全身が現れる前にプリンターから乱暴に紙をもぎ取った。 「ああっ! なにやってるんですか!」 「あっわり、手元狂ったわ」  悲痛な声を上げる能義に対し、そう笑いながら背後に写真が印刷された紙を持っていった俺はそのまま全力でぐしゃぐしゃに丸める。心臓停まるかと思った。というか絶対ちょっと停まった。そして、なんで能義はこの写真持ってんだよ。 「A組ってうちじゃん」 「他校だろ他校、んな変態うちの学校にいるわけねーだろ」  どうやら間一髪岩片は見えなかったようだ。バクバクと煩くなる心臓を落ち着かせつつ、俺は動揺を悟られないよう岩片に笑いかける。  その矢先、 「ん? また出てきた」  不意に、プリンターを見ていた岩片がそんなことを言い出す。  なんですと。ぎゅっぎゅと形が無くなるくらい力入れて写真を握り潰していた俺は静かな音を立て続々と俺の写真が写った紙を吐き出すプリンターに目を見開いた。 「ああ、一応五十枚設定していたのであと三十枚は出てきますよ」  こいつはなにか俺に恨みでもあるのか。慌てて束になったそれを隠すように抱えるが、間に合わない。  腕から溢れる写真が印刷された紙になんだかもう泣きそうになった。 「ん? あれ……これって尾張く……」  そして、俺の腕からひらりと滑り落ちたコピー用紙を拾った岡部はそう目を丸くさせ、咄嗟にそれを奪い取った俺は岡部に目を向ける。 「おいっ岡部今すぐ印刷を中止させろ!」 「え? は、はいっわかりました!」  そう紛らすように声を上げれば、ビクッと肩を跳ねさせた岡部は慌ててプリンターを弄る。焦りすぎてつい語気が荒くなってしまい後悔したが今は感傷に浸っている場合ではない。慌てて散らばるコピー用紙を拾い上げていると、「せっかく生徒会室用と自室用とロッカー用と保存用とぶっかけ用で確保しようとしましたのに……」とかなんとか能義が言い出した。  ぶっかけ用ってなんだよ。いや知りたくもないがなんだよ。意味わかんねえよもう。 「これで全部だな」 「ハジメーあと一枚プリンターに挟まってんぞ」  そう大体の紙を集め終え、俺が小さく一息ついたときだ。  岩片はそんなこと言いながらプリンターからはみ出るそれに手を伸ばした。  やばい。そう直感したときには時既に遅し。 「……って、ん?」  俺が振り返ったのと岩片がコピー用紙を手に取り、片面に印刷されたそれを見るのはほぼ同時だった。

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