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03
「ふざけるのはその格好だけにしろ! そんなことをする暇があるなら俺に貢げ! 校内の風紀を乱すような真似をするなら俺に献納しろ! そんなチャラチャラした服装にかける金があるなら俺に寄越せ!」
怒鳴る怒鳴る怒鳴る。そりゃあもうこちらがふざけるなと言いたくなるくらい。
俺の腕を掴んだそいつ、もとい風紀委員長・野辺鴻志はビシッと竹刀を突き立て、どちらが風紀を乱しているのかわからない宣言をした。
風紀の刺繍が入った腕章。きっちりと着込んだ制服。
振り返れば風紀委員長・野辺鴻志を筆頭に風紀委員がずらりと並んでいた。
風紀委員の集団にいつの日か物理的な意味で女にされそうになったことを思いだし、戦慄する。
どうやらそれは俺だけではないようだ。
「風紀……ッ!」
「貴様ら、覚悟は出来てるんだろうな。尻バット百本だ! 綺麗なケツで帰れると思うなよ!!」
いきなり現れた風紀委員にざわめく三年に対し、俺を退かすように前に出た野辺鴻志は目の前にいた三年を竹刀でぶん殴り、足で踏みながら周囲の生徒に声高々と宣言する。
最早どちらが悪役かわからない。
そして、野辺の馬鹿かアホみたいな宣言を合図に始まる不良生徒と風紀委員の乱闘騒ぎ。
不良の意識は俺から風紀委員へと向き、辺りには罵詈雑言が飛び交う。
なんでこう次から次へと物事が悪い方向へと行くのだろうか。
どうやらここには五条もいないようだし、一先ず面倒なとこになる前に抜け出すか。
思いながら飛んでくる拳を避ける俺はエレベーターへと向かう。
が、無駄に人が多いせいでこう、身動きが取れない。っていうか誰だ今人の脛蹴ったやつは。
そう敵か味方もわからないような混沌とした乱痴気集団にぎゅうぎゅうと押し潰されそうになった。
なにかにぶつかり、ふわりと甘い薫りが鼻腔を擽る。どうやら人にぶつかったようだ。
咄嗟に顔を上げれば、王子様がいた。いや、別にメルヘン思考ではないが、そう、まんま絵本から抜け出したような王子様がいたのだ。
目映いプラチナブロンドに淡く透き通った碧眼。白い肌に、見苦しくない程度に着崩した制服。
そして、その左腕には『風紀』の刺繍が入った腕章が。
こいつも風紀なのか。
黒髪に着込んだ制服集団・風紀委員の中でもどこか浮いたその青年を凝視していたときだった。
こちらの視線に気付き、ふわりと微笑んだその金髪の風紀委員はそっと俺の腕を掴み、人混みの中から引きずり出してくれる。
「君、大丈夫? どこにも怪我はないかい?」
「ん……まあ」
「そう、だったらよかった」
どうやら助けてくれたようだ。
意外と流暢なその日本語に風紀にもまともなやつがいたんだな。なんて思いながら甘く微笑む青年に「ありがとう」とお礼を口にしようとしたときだった。
「せっかくの綺麗な体に傷が付いたら大変だからね」
女の子ならば一目で恋に落ちてしまいそうなその輝かしい笑顔のまま、その金髪の風紀は笑う。
そう、女の子ならば。残念ながら俺は男の子だ。
「……はい?」
そうナチュラルに女でも相手にしてるかのような言葉を投げ掛けられ、俺の思考は停止する。
いや、まあ、怪我に気遣ってくれているのだろう。
発音がよくてもやはりこう意味や言葉使いがわからないというのもあるかもしれない。
そう敢えて目を瞑り流そうとするが、その金髪の風紀がただの日本語下手ではないことに気付くまで然程時間はかからなかった。
「それにしても、怖かっただろう? ごめんね、助けるのに遅れてしまって……もしも僕らが一歩でも遅れていたと思ったらゾッとするよ。あんな餓えた目をした獣を前に君を一人置いてきぼりにするなんて」
両肩を掴まれ、大袈裟にそう仰々しいというかなんというかこう演技がかった長台詞を饒舌に口にする金髪に俺は硬直した。
なんか、やばいぞこいつ。この学校に来てから色んなやつと会ったがこいつはまじでやばい香りしかしない。色んな意味で。
逃げるにも動けず、ニュータイプの面倒くさそうなやつに狼狽えているときだった。
「寒椿! ごちゃごちゃ煩いぞ! さっさとそいつらを指導室へ連れていけ!」
ぐったりとした不良生徒を引き摺り近くの風紀委員に押し付けた野辺はそう怒鳴りながらこちらへと歩いてくる。
近付いてくる野辺から逃げようとすれば「わかってるよ、委員長」と金髪は野辺に応え、そしてそのまま優しく肩を抱き締められた。どうやらこいつが寒椿のようだ。
「頼むからそんな煩い声で怒鳴らないでくれるかな、僕の愛しい仔兎が震えてる」
「こ、こうさぎ……」
「さあ、この手を取って、僕の仔兎。一人で歩くのは辛いだろう。それとも、麗しい姫君はこの僕の腕に抱かれるのをご所望なのかな」
きらびやかな笑顔を浮かべる金髪もとい寒椿に顔を引きつらせた俺は「結構です」と丁重にお断りする。鳥肌がハンパない。
姫君、姫君って言われた。この俺に姫君とかまじでこいつの脳みそは不思議の国かどこかメルヘンな世界ににいってるんじゃないのか。
そして、こちらまでズカズカと歩いてきた野辺に襟首を掴まれる。
「寒椿、おい、寒椿深雪! いつも言っているだろう、男なんぞこう運ぶのでいいと!」
「うわっ」
「来い、事情聴取だ」
「なんで俺が……っいってぇ! 引き摺んなって、おいっ!」
わけもわからず野辺に引っ張られた俺はすぐ側に取り付けられたエレベーター機内に放り込まれた。
やっぱりお姫様抱っこの方がましだ。背中を強打して踞る俺に構わず涼しい顔して乗り込んでくる暴君もとい野辺鴻志と電波もとい寒椿深雪を睨みながら呻く。
いや、やっぱどっちも嫌だ。
「あーあ、せっかく来たのにもう連れてかれたじゃん」
「風紀うざいなぁ、もう」
「どうする? 結愛。さっきぼく会長に報告しちゃったよ」
「そうだね乃愛、せっかくめかし込んでたから言わなくていいんじゃない」
「言ったら絶対凹むもん」
「「それに、言われた通り尾張元を連れていけばいいだけだもんね」」
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