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04
【side:岩片】
「ったく、出ねー」
授業中。
携帯電話に表示されたハジメの番号を睨みながらそう吐き捨てれば、隣の直人が手にしていたゲーム機から顔をそらし心配そうにこちらに目を向けてくる。
「尾張君ですか?」
「あぁ。なんかDE棟に行くっつってから全然」
「DE棟っ?!」
尋ねられたので普通に返せば馬鹿煩い怒鳴り声を上げる直人。
「うお、びびった」言いながら騒ぎ出す直人に目を向ければ、ハッとした顔をした直人は「あ、す……すみません」と恥ずかしそうに萎んだ。
それも束の間。
「いえ、あの、尾張君一人で?」
「じゃねえの?」
「五条探しに行くって言ってたから」携帯電話を操作し、数十分前にハジメから来たメールを眺める。
本文にはただ一文、『五条祭のクラスがあるDE棟に向かう』という義務的な内容のみが記載していた。
そうだ、あいつは今朝から五条探すためになんかちょこまかしていた。
そして、最後に入ったDE棟に向かうというメールを最後にハジメからの連絡が途絶えた。
おっちょこちょいなハジメには遠出するときは小まめに連絡するよう言っていたのだがこの始末だ、心配になって何度も連絡を入れるがまだ返事は返ってこない。
センター問い合わせをし、まだ返事がきていないことを確認した俺は小さく溜め息を吐き、携帯を閉じた。
それを眺めていた直人はどこか考え込むような難しい顔をしてみせる。
「先輩ならこの時間帯教室にいないと思いますよ。いつもサボってますし」
「今の時間どこにいるかわかるか?」
「さぁ……あの人が考えてることなんてわかりませんからね、俺はなんとも。……五条先輩探してるんですか?」
「まぁな、ちょっと用があって」
監禁していたところを逃げられた、なんて言う必要はないだろう。
そう適当に流す俺の言葉に納得したように直人は「なるほど」と小さく頷き返した。
そういえば、こいつ五条の知り合いなんだっけな。
五条祭を釣る餌になるだろうか。いや、無理だな。ハジメの話を聞く限りイケメンにしか興味ないらしいし、二人のやり取りを見る限り仲良さそうには見えなかった。
どうにかして五条祭を炙り出すことは出来ないだろうか。そう思案していたときだった。
「あ」
「あ?」
なにかを思い付いたような声を上げる直人に目を向ければ、目があった。
「もしかしたら生徒会室にいるかもしれません」
そして、直人はそう続ける。自信があるのか、僅かに声が弾んでいる。
「……生徒会室? 五条祭が?」
「はい。先輩はよく生徒会室に入り浸ってますから、もしかしたらですけど」
「あいつ生徒会と仲いいのか?」
「と言うより、崇拝に近いですが……いるんですよ、この時間帯、生徒会室に五条先輩がハマってる方々が」
気になって詳しく聞きだそうとすれば直人はそう小さく頷き、笑った。
生徒会と五条祭。副会長の能義有人と書記の五十嵐彩乃が五条祭が関わりあるのはわかったが、いまいちピンとこない。
「誰だよ、そいつって」勿体ぶったようなことを言う直人に焦れ、そう促せば「わかりましたから、急かさないで下さい」と直人は笑う。
そして、
「生徒会会長補佐左門乃愛ちゃん、結愛ちゃんです」
そう、周りを気にするように声を潜める直人は五条祭がハマっているらしい生徒の名前を口にした。因みに周りには居眠りした連中しかいないからあまり声を潜める必要性が感じなかったが、突っ込むところはそこではない。
「女みてーな名前だな」
生徒会のことはざっと調べたが会長補佐なんて役職があるとは聞いていない。
思いながら適当なことを口にすれば、直人は「残念ながら男ですよ」と笑う。
「先輩が『ロリショタツインズ萌え! うおおお! 俺のズリドル!』とか言いながらコラ作っては売り捌いてましたね。因みに売り上げナンバーワンなんですようちの写真部特製裏写真集の中では」
頬を弛ませ、目を輝かせた直人はそう机に手を置き熱く語る。
というか写真部特製裏写真集ってなんだ。どうせろくなのではないんだろうとか思いつつ、お代官お主も悪よのうみたいな顔になっている直人から目を逸らした俺は再び確認するように尋ねた。
「とにかくそのー……結愛? 乃愛? だかのだかのとこに五条祭がいるかもしんねえってことだな?」
「ええ、そうですね」
直人の返事を聞き、俺は立ち上がる。
いきなり席を立つ俺につられるようにこちらを見上げてくる直人は慌てた様子で「岩片君、どこに行くんですか?」と問い掛けてきた。
「生徒会室。直人もついてこいよ」
「それは構いませんが……尾張君、一人で大丈夫なんですか?」
随分とハジメを心配している直人に、そこまでDE棟は危ないところなのだろうかと逆に好奇心を刺激されつつバイブで震える携帯電話を取り出した俺は「ああ」と頷き返す。
新着メール一件。宛先はハジメ。
内容は
「今、ハジメから風紀に捕まったって連絡入った」
『風紀室にいるから早く来てくれ』と表示されたメールの本文に目を走らせた俺はそれに返信するわけでもなく、制服に仕舞う。
構わず生徒会室に向かう俺に直人はやっぱりハジメのことが気になるようだ。
歩き出す俺の後ろからついてくる直人は「ほっといていいんですか?」と尚もしつこく尋ねてきた。
面倒だったので「ほら、可愛い子には旅をさせろって言うだろ?」と冗談で流そうとすれば「多分それちょっと違うと思います」と冷静に返される。普通に突っ込まれた。
というわけで、ハジメからのSOSメールに構わず俺は直人とともに左門乃愛と結愛に会うために生徒会に向かうことにする。
ハジメはその後拾ってやろう。
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