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05

 風紀室。  周りには誰もいない。  否、先程まで俺をここに連れてきた野辺がいたが数分前俺を拘束してさっさと風紀室を後にした。  今、俺は一人だった。  訳もわからぬまま手足を拘束され床の上に転がされた俺は後ろ手にスラックスのポケットに入っていた携帯を取り出し、岩片に助けを求めるメールを送信する。  気紛れなあいつが来てくれるかどうかわからなかったが、来てくれるはずだ。そう信じたい。というか来い。来てください。  なんて念じながら再びポケットに携帯を戻そうとしたときだった。  不意に、風紀室の扉が開く。  野辺が寒椿と他の風紀委員を引き連れ戻ってきたのだ。  全身が緊張し、瞬間、たった今隠そうとしていた携帯電話がするりと手から滑り落ちた。  風紀室にカランと乾いた音が響き、連中の視線が一斉にこちらを向く。 「貴様、なにをしている」 「げっ」 「怪しいものは全てこちらに渡せと言ったはずだ! さっさとさっさと出せ!」 「あっ」  眉間を寄せ、手にした竹刀を引き摺るようにずかずか近付いてきた野辺は落ちていた携帯を拾い、床の上の俺を見下げるように睨み付けた。  全身から血の気が引く。  前回殺されかけたせいか、なんかもうダメだ。条件反射で身がすくんでしまう。 「他にもなにか隠してないだろうな」 「隠してねーよ」 「ふん、どうだかな! どうせあれだろ? ブランド品とか見せびらかすように歩いて他の連中を煽ってたんだろ? ああ、いやらしい! これが下品な都会に毒された若者の姿か! 見せ付けてわからせたかったんだろ、田舎者の猿に! 『お前らみたいな下流家庭とは違うんだよ』ってほくそ笑んでたんだろ、田舎者の薄汚い猿どもに!」 「ああ! これだから嫌なんだ都会の連中は!」なんだその百八十度偏った思考は。被害妄想ってレベルではない。  こいつは俺をなんだと思っているんだと呆れる反面、どこか演技かかった仰々しい動作で声を荒げる野辺になんかもうとにかく早く岩片が来てくれることだけを祈る。  そして、その祈りが通じたのか風紀室を歩き回りながら語っていた野辺は不意にぴたりと動きを止めた。 「全て出せ」  まだか。まだ諦めてなかったのか。 「出せって言われても、大体あんたらのせいで腕使えねーんだって」 「足を使えばいいだろそんなこともわからないのかこの猿!」  そんな無茶苦茶な。  取り敢えず言っとけみたいなノリならまだわかるのだが、こいつの場合本気で言ってそうなだけに全く笑えない。  やっぱりこいつ嫌いだと再確認する俺はもちろん拘束された足でどうこうするようなスキルを心得ているわけでもなく、文字どおり手も足も出来なかった。  そんな俺に対し、こちらを一瞥した野辺は「まあいいだろう」と低く呟き、隣に並ぶ寒椿に目を向ける。 「おい寒椿、身体検査だ」 「そいつを脱がせろ」そして、そう一言。  野辺はまた突拍子のないことを言い出した。 「脱が……っ」  脱がせるって、なんで俺が脱がされなきゃならないんだ。  自慢じゃないけど一応こう見えて俺は被害者なんだぞ。こんな扱いを受けるような真似はしていないつもりだ。  相変わらず一方的な野辺に狼狽える俺だが、命令されたのは寒椿深雪だ。  あのちょっと頭可笑しいけどなんか優しそうなあいつなら野辺の横暴な命令を聞き入れないはずだ。  そう信じる俺だが、やはりこの世の中というものは俺に冷たく出来ているようだ。 「全く、人使いが荒いな。野辺委員長は」  寒椿はそう諦めたような表情で小さく息を吐き、転がる俺の足首の拘束だけを解いた。  自由になる足。  咄嗟に立ち上がろうとしたとき、伸びてきた寒椿にそっと背中を撫でるように押される。  変な体勢だったお陰で痺れが走り、思ったように歩けない俺を寒椿は風紀室に置かれたテーブルに誘導してきた。  そして、訳もわからずよろめく俺は地に足を着いたままテーブルに上半身を押し付けられる。  上半身を支える腕が使えず、そのままテーブルに頬擦りさせられるように俯せに倒される俺は背後が見れないこの体勢に嫌な予感を覚え、慌てて起き上がろうとするが押さえ付けてくる寒椿の手は思ったよりも力強く、全身に力を入れようとすればするほど首の骨が軋んだ。 「そんなに震えなくても大丈夫だよ、僕の仔兎。委員長と違って僕は優しいからね、真綿で包み込むように丁寧に一枚一枚君の素肌を覆う布切れを剥い「さっさとしろ寒椿!」……やれやれ。せっかちな男は嫌われるよ、委員長」 「まあいいさ。それじゃあお言葉に甘えて君の体、調べさせてもらおうかな」顔を青くし、絶句する俺に構わずそう耳元で甘く囁いてくる寒椿は言いながらテーブルに押し付ける人の下腹部に手を這わせ、そのままカチャカチャと音を立てベルトを緩めようとしてくる。 「わっ、ちょ、タンマタンマタンマ」  いきなりそこかよ。  いや、段取りを踏めばいいというものではないのだが。  さっそく下を脱がせようとしてくる寒椿になんかもう生きた心地がせず、股間をまさぐる寒椿の手から逃れるため必死に上半身を捻らせるが後頭部を押さえ付けられているお陰で全くもって効果はない。 「ああ、恥ずかしいのか。恥じらいはいいね、大切だよ。君みたいに恥じらいをもっている初な子を一糸まとわう姿にするなんて、まるで罪を犯してるようで酷く緊張するね。ほら、聞こえる?僕の心臓の音が」 「でも、この背徳すらも心地よく感じてしまうのはやはり相手が君だからかな」この体勢で聞こえるわけねえだろと内心突っ込む俺に構わず緩められたベルトから手を離した寒椿はそのままウエストの中へと手を這わせ、尻の輪郭をなぞるように下着ごとずるりと脱がされる。  咄嗟に足をばたつかせるが、腹部に当たるテーブルに這いつくばらされくの字に折れ曲がった体はそれ以上動かない。  衣擦れする音を肌で感じ、尻を這う他人の手の感触が不愉快極まりない。  全身が粟立ち、背筋が震えた。 「っ、退けって、おい」 「寒椿、いつも思うが貴様実は身体検査の意味を知らないのか」 「やだな委員長、僕の国では身体検査はこうだよ」 「ものを隠していないか隅々まで調べるのはこの国も同じだろう?」暴れる俺の動きを封じ込む寒椿はそう、側にいるであろう野辺に返す。  確かにそうかも知れないけど、なぜ俺がこんなことをしなければならないんだ。  それだけがただ納得できない。 「っ、ゃ、まじ……っ離せよって、なあっ! なんも持ってねえってば、ほんとに」 「可哀想に、こんなに震え上がって……大丈夫、安心して。すぐに終わらせてあげるからね、僕の可愛い仔兎」  素晴らしいぐらい噛み合わない会話。  死にそうになりながら背後の寒椿を睨めば、ふふと上品に笑う寒椿は人の下着を膝上まで下ろし、そのまま乾いた自分の指先を舐め唾液を絡ませてくる。  上品な相貌には似合わない、下品な動作。  目が合えば、寒椿は小さく笑いながら徐に人の尻を鷲掴んだ。  そして、臀部に這わされたその指はそのまま皮膚を滑り肛門の付近をなぞる。  次の瞬間、ずぷりとしなやかな指が体内に進入してきた。 「っ、ぃ、ッ……っ」  唾液のぬめりを助けに内壁を濡らすように埋め込まれるその指の感触に目を見開く。  体内で動く異物に嫌な汗が滲んだ。  痛みが、というよりも探るような動きで奥まで深く挿入される異物感に体が強張り、息が詰まりそうになる。  最悪だ。どれくらい最悪かというとそりゃあもう言葉に出来ないくらい。 「どうだ寒椿、異物はないか?」 「んー……そうだね。手前の方にはなにもないけど奥の方はどうかな」 「っ、やめろっ! おいっ!」  二人のやり取りに我慢出来ず、声を張り上げる。  手首を束ねる拘束具が外れないかと試行錯誤してみるがびくともせず、その代わり、乾いた寒椿の指がもう一本追加された。  内壁を引っ張るその痛みに唸るが、構わず二本の指を捩じ込む寒椿は中を掻き回し、そのまま左右に押し開く。  背後に立つ連中に自分がどんな姿を晒しているのかと思えばまるで生きた心地がしなかった。 「っおい、まじ、抜けよ、抜けってば……ッ!」  指に絡み付いた唾液が中でかき混ぜられる度にぐちゅぐちゅと嫌な音を立てる。  背筋が凍るような指の動きに、羞恥よりもあまりの不快感に顔が熱くなった。  この学園はどうなってるんだ。転校早々ケツ弄られるのこれで二回目だぞ。  こんなにじっくり掻き回されるくらいならまだ、政岡に突っ込まれた方がましだ。……いや、どっちも嫌だ。普通に嫌だ。 「それにしても、初めてみたいだね。美味しそうに僕の指を咥えて離さない、いい締め付けだ」  頭上から、透き通った柔らかい声が聞こえてくる。  その内容に、なんだかもう泣きそうになった。  根本から第一関節までぐちゅぐちゅと抜き挿しされ、いやらしい動きで中を擦るその指をどうにかして拒もうとしたのが裏目に出たようだ。  緊張した内壁をほぐすように二本の指で揉まれ、ぞくりと背筋が粟立つ。 「なんだ貴様、そんな顔して初物か。てっきり使いまくってガバガバのだらしないケツの穴だと思ったんだがな。ふん、貞操観念が残っていたことだけは褒めてやろうか」  やはり一方的に言葉を並べる野辺はそのままテーブルに俯せになる俺の目の前まで歩いてくる。  そして「寒椿」と名前を呼んだと思えば、そのままごとりとなにかをテーブルの上に置いた。  銀色に輝く、大きなくちばしみたいな形のクリップがついたその金属には、見覚えがある。 「それを使え。処女の狭いケツ弄るのは面倒だろ? 寒椿」  クスコ。と、言うらしい。  前の学校で、岩片が養護教諭に使っていたのを思い出す。確かその用途は、陰部の拡張。  いや待てよなんでそんなものが風紀室に置いているんだ。可笑しいだろ。そしてなんで俺が使われなきゃいけないんだよ。指の次は金属とかそんなバリエーションいらないんだよ。というか、岩片はまだか。  まさかこんなところでクスコをお目にかかることができるとは。しかも体験までさせていただけるなんて。ほんとふざけんな。 「へえ、委員長準備いいね。じゃあこの子の中をもっとよく見るために貸してもらおうかな」 『そんな金属を僕の可愛い仔兎に入れて中を傷付けたらどうするんだい?』とかなんとかかんとか言ってもしかしたら、万が一寒椿が野辺に言い返してくれるかもしれない。そう淡い期待を抱いた俺だったが淡すぎたようだ。  テーブルの上のそれを手に取り、ふわりと微笑む寒椿になんだか生きた心地がしない。  いや、冗談抜きにこの展開はやばい。  いくら自分に自信がある俺でも体内を覗いて平気なほどタフな精神はしていない。 「っやめろって、言ってんだろ……っ!」 「ふふ、そんなに照れないでくれ。なにも入れられていない綺麗な君の体をよく見てたいんだ」  クスコを手にした寒椿の引き締まった腕を掴み、奪おうとするがなかなか手強い。  近くにいた風紀委員に両肩をテーブルに押し付けられ、突っ伏した俺は「なにも入ってねえなら見る必要ねえだろっ」と声を上げた。  その一言に一瞬風紀室が静まり返る。 「………………」  少し考え込むように顔を見合わせる野辺と寒椿。  そして、こちらに視線を落とした寒椿は可憐に微笑んだ。 「今日の仔兎は元気だね。ちょっとひやってするかもしれないけど堪えられなくなったら僕の手を握って我慢してくれても構わないからね」  おいなにこいつ流してんだ。まさか今自分が掘った墓穴なかったことにするつもりか。 「ふざけ、んん……っ」  抵抗しようと体を起こそうとするが背後から体を押さえ付ける手が増え、後頭部を押されテーブルに強制頬擦りされる俺は歯を食い縛り、背後に立つ王子の皮を被った強姦魔を睨み付ける。  目が合って、寒椿は目を細め微笑んだ。  丁度そのときだった、風紀室の扉が叩かれる。  室内に響くノック音。まさかの訪問者にぎょっとして首を動かし背後の扉を振り返る俺。  同様、風紀委員たちの視線もその扉に向けられた。  そして、小さな沈黙。 「どうぞ」  と思いきや普通に扉を開く野辺。  どうぞじゃねーよ状況見やがれこの節穴野郎がと罵る隙も俺ケツ丸出しじゃんと恥ずかしがる隙も与えられない内に呆気なく招き入れられる訪問者。  そして、開いた扉の向こう側に立つ訪問者の姿を目にした俺は凍りついた。  ワックスで弄った茶髪に着崩したカラースーツ。  全身からホストですみたいなオーラを滲ませた担任がそこにいた。 「……!!」 「ああ、なんだ大体揃って……」  現れた顔見知りのホスト教師もとい宮藤雅己に青ざめた俺は咄嗟に顔を隠そうとしたが、遅かった。  風紀室を見渡しそこにいる数人の風紀委員と委員長の姿を確認した宮藤と目が合い、宮藤の動きが停止する。  そりゃあもう、まるで時間が止まったかのように。  それは俺も同じで、やばいと思ったときにはなにもかもが遅かった。  ああ、終わった。俺の華やかな学生生活終わった。  なんだかもう顔が熱くなって、恐らくタコのようになっているであろうときだった。  不意に、宮藤の視線が逸らされる。  そして、 「揃ってるな」  なにもなかったかのように続ける宮藤。  そう、なにもなかったかのようにだ。  まるでこの風紀室にはズボン脱がされて半ケツのままテーブルに押し付けられ肛門に指捩じ込まれて弄られてる生徒なんて最初からいなかった。そんな宮藤の態度に少なからず俺はショックを受けていた。  いや別に『うおっ! こんなところに我がクラス2ーAの生徒尾張元が風紀委員に押さえつけられてアナルいじられてる!』とかそこまで食いついてもらいたいわけではないがこう、止めるとかもっと他にも教師としてあるだろ。  そう言いたかったが、いつの日か五十嵐彩乃から聞いた話で教師たちは不良生徒に無関心というか関わらないをモットーにしているというのを思い出し、なにも言えなくなる。取り敢えず穴があったら入りたい。 「どうかしましたか、宮藤先生」 「ああ、この間頼んでいた調査の書類を取りに来たんだよ」  そんな俺の気も知らず、ごく普通に宮藤に対応する野辺に対し声を掛けられた宮藤は「出来てるか?」と聞き返す。 「これですか?」 「おー、それそれ」  そして風紀室の資料棚の側まで行き、なにやら普通に委員長らしいことしている野辺は宮藤になにか手渡した。  宮藤もなかなかの不良教師だが野辺の対応を見る限り教師という役職の人間には一応敬意を払って接しているようだ。いやそんなこと今はどうでもいい。 「まさみちゃ、……っ、ん……ッ」  複数の手に押し潰されそうになる俺はあまりの圧迫感に堪えれず、もうこうなったら誰でもいい。助けてくれ、と宮藤を呼ぶが、聞こえていない。  それどころか、宮藤への対応は委員長の野辺に任せることにしたらしい寒椿は手にしたクスコを握り直し、そのまま人の肛門に宛がった。  肛門に突き立てられるひんやりとした金属独特の感触に息を飲んだときだ。  その硬く尖った先端はぷにっと肛門をつつき、そしてそのまま体内へと侵入を始める。 「駄目じゃないか、いま君の体に触れてるのは僕だよ。この僕、寒椿深雪だ」 「待っ、や、痛ぅ……っ」 「さあ、その桃色に染まった愛らしい唇で僕の名前を呼んでくれ。そして聞かせてくれ。君の甘く淫靡な声を」 「っぁ、や、め……ッ、糞っ、離せ、離せよ……っ」  先ほど乱暴ながらもほぐされたお陰であまりの痛みに痺れた肛門には今痛覚という痛覚はなく、ただ身の凍るような嫌な異物感が体内を這い擦るようにゆっくりと入り込んでくる。  元々挿入するための医療器具なのであまり負担のかからない作りをしていたが、だからこそ余計に恥ずかしくて堪らない。  風紀委員に囲まれたままもがく俺の声なんか聞こえていないのか、野辺となにかを話し終えそのまま風紀室を出ていこうとする宮藤になんだかもう俺はすがるようにその背中を眺める。 「くどうせんせ……ッ!」 「…………」  そして、そう圧迫された喉奥から声を振り絞ったときだった。  ドアノブを掴み、そのまま扉を開けようとしていた宮藤の動きがピタリと止まる。  そして、思い出したようにこちらを振り返った。 「ああ、そうだった。そういえばさっき生徒会室前で役員たちが揉めてたな。お前ら全員そっち止めてきてくんねえかな」 「至急な」そう、にこりと営業スマイルを浮かべる宮藤の口から出た『生徒会』という単語に風紀室の空気が一瞬にして変わるのがわかった。  そして、一番最初にその宮藤の台詞に食い付いたのはやっぱり野辺だった。 「なに? また生徒会の連中か! おい寒椿、さっさと行くぞ!」 「生徒会役員の一人や二人くらい委員長一人でもいいんじゃないかな」 「煩いぞ寒椿! 副委員長の分際で俺に口答えするんじゃない!」  言いながらズカズカと歩み寄ってきた野辺はそのまま俺のケツに挿入されていたクスコを掴み……え?ちょっと待った。  まさか、まさか。 「っ、ひ、ぁッ!」  ずぼっと音を立てる勢いで引き抜かれる金属のそれに思いっきり内壁を擦り上げられ、痺れたそこに走った刺激に我慢出来ず声を洩らしてしまう。  なんでこうこいつはこんなに手荒いんだ。抜いてくれるのはありがたいがせめてこうもっと優しくしてくれ。  変な声を出してしまい一人なんかもう顔から火を吹きそうになる俺に構わず、引き抜いたクスコをテーブルの上に投げ捨てる野辺は悶絶する俺を一瞥し「そこのやつは縛ってそこら辺に置いとけばいいだろう」と吐き捨てた。 「寒椿」 「わかってるよ、彼の自由を封じればいいんだろう」  野辺に呼ばれ、そうやれやれと肩を竦めた寒椿は言いながら縄を取り出し、そのまま束ねるように拘束していた俺の腕をぐるぐるに縄で縛り上げる。  キツく縛られたせいで僅かに胸が反るような形になった。かなり恥ずかしい。というかなんでこいつ縄なんてもの常備してんだ。 「ああ、ごめんね。こんな奴隷のような姿をしてしまって。本当は一時足りとも君と離れたくないんだけど、どうやら運命はどうしても僕たちを引き裂きたいらしい。君を傷付けるようなこんな世界、滅べばいいのに」  お前がしたんだろうが。 「寒椿深雪、さっさとしろ! 委員長命令だ!」 「わかってるよ、委員長。それじゃあまた、囚われの姫君。今度君の縄をほどく時、それはきっと「とろいぞ寒椿!」……ああ、委員長、止めてくれ。服にシワが出来てしまう」 「知るか、さっさと来い!」  そしてあまりにもこう前口上が長い寒椿に痺れを切らしたようだ。  壁に立て掛けていた竹刀を手に取り、空いた手で寒椿の首根っこを掴んだ野辺は風紀室にいた委員を連れずるずると寒椿を引き摺りながら風紀室を退散する。というか寒椿、副委員だったのか。

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