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彩兎
「…では、仕事の話はこの辺で。せっかくですし、デザートも頼んでください」
「…や、やっと終わった」
仕事終わりに彩兎に誘われ内心ちょっと期待していた俺だったが、彩兎おすすめのお洒落なお店で始まったのは今 捜査中の事件の話だった。
(…なにもこんな店でする話じゃなくね?)
顔に出ていたのか、俺の表情を読んで彩兎がクスリと笑う。
「別に職場でしても良かったんですけどね。ちょうど晩ご飯の時間でしたし、この後の予定を考えたらここでした方が合理的かなと♪」
「……この後の予定ってなんだよ」
もっともらしく話す彩兎の言葉に、まだちょっと期待せずにはいられない俺は控えめに聞いてみる。
「まあそんな事より、このケーキとかどうですか?紅茶にも合いそうですよ♪」
だが、さらりとかわされる。
俺は諦めて彩兎の選んだケーキを頼む事にした。
ケーキが来るまでの間、彩兎は何故か上機嫌で今日あった事を話していた。
「なんか今日の彩兎は随分と機嫌がいいみたいだな?」
と、彩兎の機嫌につられるように気分が上向いていた俺が言うと
「あ、分かります?今日は大切な日なんですよ♪」
「……え」
「僕の大事な人の大切な日なんです♪」
と、満面な笑みで返された。
「…え、それって…」
「今日11月15日は、めざま○テレビの三宅さんの誕生日なんですよ♪」
「………………は?」
彩兎の思いもよらない言葉に俺の頭の中は白くなり付いていく事が出来なかった。
「知りません?め○ましテレビの三宅さん♪ああ朝の弱い茨城さんじゃあ、めざ○しテレビ見てないかな?」
「…………知ってるけど」
「そうですか♪彼の笑顔と声、割りと好きなんですよね♪茨城さんもいいと思いませんか?」
「…………」
などと同意を求められる俺。恋人の俺以外の男の賛辞を聞かされどうリアクションすればいいと?
俺が複雑な思いを抱えこみ何も言う事が出来ずにいると、彩兎の笑顔が微妙に変わった。
「…はあ。可愛いなあ、茨城さん」
「…ん?なんか言ったかよ?」
「いいえ、何も♪」
そうこうしているうちに店員がケーキを運んで来て俺の前に置いた。
それも“happy birthday”の文字の入ったプレートの乗った所謂ホールのバースディケーキだった。
「…え、これ」
「僕が僕の大事な茨城さんの誕生日を忘れてるわけがないでしょう?茨城さんお誕生日おめでとうございます♪」
彩兎のサプライズに感動して俺がお礼を言おうとすると、ケーキを運んで来た店員がいきなり歌い出した。
「happybirthday to you~♪」
ギョッとした俺が固まる間も歌い続ける店員。
ムダに美声な歌声は周りの他の客の目を引き付け歌い終わると一斉に周りからも「おめでとう」のお祝いの言葉が飛び交った。
あまりの恥ずかしさに真っ赤になって俯く俺。
「良かったですね茨城さん♪皆がお祝いしてくれましたよ♪」
「…彩兎、お前。俺がこういうの恥ずかしくて苦手だって知ってんだろう」
「あれ?そうでしたか?」
しれっとした笑顔に、俺は彩兎がわざとこんなサプライズをした事を確信する。
「…なんなの?彩兎は本当は俺の事がキライ?」
「そんな訳ないじゃないですか。そもそも嫌いなら構ったりしません。大好きですよ、茨城さん♪」
そうなんだよ。キライなヤツは無視。好きな相手ほど苛めたがる性格の彩兎。
(じゃあ間違いなく俺は好かれてるんだよなあ。まあそう思えば彩兎のコレも可愛いもんか)
と、俺が彩兎の行動を甘んじて受け入れる気持ちになっていると、彩兎がフォークでケーキを一口大に掬い取った。
「はい、どうぞ♪あ~ん♪」
一瞬ためらうが、思いきって口を開き差し出されたケーキにパクつく俺。
恥ずかしすぎて味なんて分かりゃしない。
「美味しいですか?あ、口の端に付いてますよ」
そう言って俺の口に付いたケーキを掬いペロッと舐める彩兎。
「も、もう、勘弁してくれ~っ」
俺はさすがに羞恥でギブアップした。
「え~?まだこれからなんですよ?」
ニヤつく彩兎に顔を真っ赤に染めた俺は涙目で訴える。
「仕方ないですね。こんな可愛い茨城さんが僕のモノだってもっと周りに教えてあげたかったのですが」
「いやいやいや、マジで言ってる?」
「僕はいつだって真面目ですよ♪」
「…恥ずかしいヤツ」
「あはは。じゃあこの後もたっぷり僕の愛を教えてあげますよ♪」
と、爽やかな笑顔でそう言う彩兎。
その後、俺の部屋に押しかけてきた彩兎に店であった事以上の恥ずかしい行為をされた。
ある意味 彩兎の愛?を知る忘れられない誕生日となったのだった…。
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