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清雅の囁き

「司は、優秀で市村の当主も期待しているから……」 「首席で入学した妾の子と、ごく平均的な成績で入学した本妻の子。市村の当主は、妾の子に後を継がせる気だというのは本当の話みたいだな。」 悔しさで、自分の手を爪が食い込むほどに握りしめる。 この男は、何もかも知っていて自分を彼らの前で辱めるだけのために翔の口から話させようとした。 思わず相手を睨みつけてしまえば、しっかりと目が合ってしまう。 清雅は口の端だけで笑い、翔に近づいてその頰に触れる。そして、そのまま顔の輪郭をなぞる。 「綺麗な顔をしている。顔だけが取り柄の母親とそっくりだな。」 必死で清雅の視線から逃れようとせず、睨み続けていた瞳が揺れる。 翔にとってその言葉は、一番言われたくない言葉だった。 清雅は、翔の反応に満足したのか翔の顔から手を離し、ポケットから携帯電話を取り出す。 そして、それ操作すればよく知った声が流れてくる。 「翔の母親は顔だけで中身が全くない。翔もその母親に似て、顔しか取り柄がない。翔は好きなように使ってくれ。しかし、司は賢く、人の上に立つ資質がある。どうか、司の方は手を出さないでくれ。」 父親が自分とその母を愛していない事など分かっていた。 司がこの学園に入学する時点で、翔は市村家にとって不必要な存在になる事も分かっていた。 しかし、どうなっても良いとまで言われればさすがに堪えた。 「可哀想に、父親に捨てられて。母親の方は、旦那の財産を散財する事で憂さ晴らしをしているようだが、お前はどうする?父親と弟など、こちらから捨ててやったらどうだ?そうしたら、俺はお前に手を出さない。」 清雅は、翔の綺麗な黒髪を撫でながら優しい声音で翔の耳元で囁く。

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