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翔と清雅2
「俺は……愛されていなくても父親を愛しているし、弟の事も愛しているから守りたい。その結果、どうなっても後悔などしない。」
翔の返事を聞き、清雅の機嫌が一変する。
鼻歌でも歌い出しそうな様子で翔の髪を弄っていたのだが、スッと目が細まり苛々した表情になる。
「馬鹿だな……本当に。」
普段の声よりも低い清雅の声を聞き、本当に自分は馬鹿かもしれないと翔は思った。
翔が犠牲になったところで、室井 清雅が室井家の力を利用すれば、市村家を潰す事は出来なくても大きなダメージを与える事は可能だ。
翔が、清雅が望んでいたような反応を返さず、彼の機嫌を悪くさせた事で、余計に状況は悪くなったかもしれない。
結局俺は、父や弟、市村家の役に立つどころか迷惑をかける事しかできないのか……
清雅の取り巻きの中でも特に目立つ二人が、何やら真剣な表情で話し合い、一人が清雅に声をかける。
「清雅さん、どうします?工藤 司の方は知らない奴の方が多いですけど、市村 翔なら名前も知られていますし、欲しいという奴は結構いますよ。この中にも、翔の方なら飼いたいという奴が何人かいます。」
不穏な話に翔は益々不安になるが、取り巻き達の方を見ず清雅の方を見続ける。
清雅は、翔から目を離すことなく取り巻き達に「だろうな。」とだけ返し、翔の方へ一歩前に出る。
「お前は、誰に飼われたい?」
翔の返事は決まっていた。
この返事は、後々後悔するかもしれない。しかし、今考えられる最善の道は父の命令通り、彼に取り入る事だろう。
「室井 清雅に飼われたい。」
清雅は静かに頷き、翔の腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。
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