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第3話

「お疲れ様です」 「お疲れっ、て、浅井くんじゃないか~」 振り向き様にフレンドリー全開なこの人は施設管理主任の宇田島 美祐(うだじま よしひろ)さん。 人との距離が近い困った人。 デスクに近づく俺の腰を取り、休憩所に拉致られた。 「…こちらが資料になります…そろそろ離してもらえませんか…」 「おっと失礼。つい、ね」 俺がこの仕事を担当し始めた三年前はここまでじゃなかったんだけど…年々パーソナルスペースが侵される。 「なんだか凄くお世話したくなるんだよね~浅井くんは」 ちょっと待て。 俺は成人男子、加えて来年三十路!誰の世話にもなりません!と心の中で叫びつつ 「まだまだ頼りなくてすみません…」 と口先だけ社交辞令をつるっと吐いた。 「違う違う!母性本能?男だから父性本能かな?くすぐられちゃうんだ。あはは」 あははじゃねえ…。 もぉヤダ、このオヤジ…。 四十代って聞いてるけど、容姿ははるかに若く見える。 こんなイケメンが俺の“お世話がしたい”とか頭がどうかしてる。 そういう嗜好なんだろうか…。 「…聞いてる?」 おっと、自分の世界に入ってた…。 「すみません、聞き逃しちゃいました…」 「ここね、図面が少し違ってるみたいで許可取った時のモノが欲しいんだ。用意できる?」 「そうなんですね。わかりました、当時の申請書類を探してご連絡いたします」 「面倒なことばかり言ってごめんね」 その通り、面倒です…おっと、そう言いつつ俺の手に手を重ねてきたからしれっと引き抜いた。 図面が違うって言ってもさ、ちょっとだけだからね。 一センチ四方位だよ、最初からちゃんとやっといて欲しい…。 「私の仕事ですから」 営業的なスマイルを顔に張り付けた。 「嫌がらずに引き受けてくれるから助かるよ」 「…!」 ぞわっ、と震えが走った。 いつの間にか背中をつつっと撫でられて…もう…怖いよ。 じわじわ距離をとる。 「書類に関してはわかり次第メールでご連絡いたしますので…失礼します」 よし、今だ、と一目散にその場を離れた。

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