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第5話
部長の嬉しそうな顔が、不吉…。
「システムの更新があって、更新ついでにいろいろ新しくする話があるんだ」
「…はぁ…」
嫌な予感しかない。
「あっちこっちの部署が絡んでくるから適任だろ?浅井くん。よろしく頼むよ」
…ビ~ン~ゴ~(悪い意味で…)
「…はい…」
部長の前なのにガックリと項垂れてしまった。
そんな俺を見向きもしないで部長は続ける。
「放っておいて悪かったね、尾川くん」
尾川と呼ばれた大男は一言もしゃべらない。
髪は伸びっぱなしでもふもふした前髪が眼鏡にかかっている。
どこに焦点があっているんだろう?
「部長、そろそろ会議のお時間になります」
俺の先輩、梶 一(かじ はじめ)が秘書よろしく声を掛けてきた。
「…尾川くん、概要を彼に説明してもらえるかな」
「…わかりました」
「後は頼んだよ」
…担当の割り振りが微妙に不公平…。
…一人でする仕事がしたい…。
打ち合わせスペースにやって来たが…尾川!何かしゃべれよ!
「あの…システム更新のお話を…して頂けると…」
「…来期に動き出すので取り敢えずの決定事項ですが…」
ほっ…ようやく話しだした…。
今は俺達の他に人がいないから聞こえるけど…この人声がちっちゃい。
――要するに金をかけて全社的にシステム開発するから覚悟しとけ!という事だった。
辛うじて都内と呼べる場所に、社屋(そこまで大きくないやつ)が六棟建っていて、結構な数の部署があるんだよ?
俺の仕事はあちこちの調整役って事だよね…うぅ…帰れんのかな…。
「…あの…浅井さん」
「はい、何でしょう」
見えないけど多分目が合ってる(はず)。
「…申し遅れましたが、私システム開発部に在籍しております 尾川 哲(おがわ さとし)です」
名刺…システム開発部…チームリーダー…そんなんやってるのか、へえ~。
「私、人事部 浅井 修士と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「……」
あれ?また黙っちゃったよ。
「それでは私はこれで失礼…」
「しゅうちゃん!」
「は?」
突然の大声に戸惑う…。
大声だせるじゃん…いや、そこじゃないな…。
「俺だよ!『さっちゃん』って言えばわかる?」
さっちゃん…さっちゃん…記憶を辿って…
…さっちゃん!
「ムッツリ さっちゃんか!」
「…ムッツリいらないですよ」
そこは突っ込んでくるんだ…。
「すまん…あれ?尾川って違くない?」
「子供の頃に親が離婚しまして…」
「そっか…大変だったな」
俺より四つ年下で25歳か…25歳でチームリーダー…すげえな。
「まぁ、これからよろしく」
立ち上がり様に頭をポンポンと撫でたらふいっと顔を背けられた…子供扱いすまん。
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