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第7話
ドン、と壁に背中を打った。
「いてて」
誰かにぶつかった?
そんなに足元が覚束なくなってたっけ?
ぐい、と顎を掬われて…
「…!」
口に温かな感触…。
「な…何…」
言葉を発しようとすれば歯の隙間から湿度を持った何かが侵入してくる。
両腕で押し退けたいのにアルコールに侵された体は言うことを聞かない。
「ん…んんん!」
くちゅくちゅと音が耳に響き、ディープキスをされていると知った。
誰?
顔を捕まえられている上に薄暗くて相手の顔がよくわからない。
酸欠で頭がぼうっとする。
止めてくれ…
言葉を発する事ができないまま、暗闇に落ちた。
「…ん?」
眩しさに目が眩む。
室内灯に照らしだされたのは寝室だった。
勢いよく起き上がるが…
「痛っ」
頭が痛い。
どこかにぶつけたようでタンコブになっている。
「いい年した大人が…タンコブ作って…」
俺はベッドに寝かされていたのだが…はたと気づいた。
ここはどこだ?
「えっと…梶さんと遠藤と食事して…」
んん?俺、店を出てない。
トイレで記憶が途絶えている。
「…そうだ、無理矢理キスされ…」
急に血の気が引いた。
ここがどこかわからない以上、キスしてきた奴の家かもしれない。
ネクタイは外され、上着も着ていない。
シャツとベルトは緩められていた。
だが、これは…介抱された感じだな…。
ベッドの他に何もない部屋。
そっと床に降りドアを開ける。
薄暗い廊下の向こうに、明かりが漏れている部屋があった。
壁に手をつきながら明かりを目指すと…リビングルームとおぼしき部屋の椅子に男が一人座っていた。
覚悟を決めて声を掛けた。
「あの…すみません…」
振り返った男の顔に見覚えがあった。
「尾川さん…どうして?」
「気がつきましたね、具合は?」
どうしてこの人が?
梶さんと遠藤は?
何で俺はここにいたんだ?
「あの…具合はいいです、多分…あ、あたま…」
近寄ってくる男に動揺した。
「頭が…?どうしましたか?」
怖い…先程の行為が脳裏にチラつく。
両手で胸を押し退けるように自分をガードしてしまう。
そんな自衛行為を物ともせずに頭に触れられた。
「ん、ここが少し腫れていますね、氷を用意してきます」
そこに座っているように、と言い残して男は隣の部屋に入っていった。
一体何がおこったんだろう…。
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