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第12話

あ、ヤバい…顔が…近づいて… ぎゅっと目をつぶった… 鼓動が早くなる… …なのに… 想像していたような顔への接触は無く、肩に重さを感じただけだった。 「今はしませんよ」 肩に顎を乗せ耳元で囁くような話し方にゾクッとした。 「ちゃんと考えておいて下さいね」 笑顔でそう言い残し離れていく遠藤に、俺は何も言えなかった。 ガチャ、とドアが閉じる音がして一人残される。 …どうしたらいい…? チワワのような後輩の雄の顔を見てしまった。 あれは告白…だよな? 力が抜けて床にへたりこんだ。 急に襲われる羞恥に両手で顔を覆ってしまう…顔が熱い。 このままじゃデスクに戻れない…。 もうしばらくここで休んで… 「浅井いる?」 ドアが開くと同時に名前を呼ばれて体が大きく揺れた。 「は…はい!」 反射的に返事をした後で黙っていれば良かったと後悔した。 無視していても奥にいればまず見つからない。 顔が赤い言い訳を考えながら声の主のもとへと進んだ。 「井上さん…何か?」 この人に呼ばれる理由が見つからない。 ちょっと眉が上がり、怒っているように見えた。 ドアが開いていても塞ぐように枠に手を付き俺を見つめる。 「こんな所で何やってんだよ」 他部署の人間にそんな風に言われる筋合いはない。 「し…資料を探しに来たんです」 「資料室なんだからあたりまえだろ」 井上がぐしゃぐしゃと頭を掻く。 「も…もう戻ります。失礼します」 「ちょっと、待てよ」 俺は前屈みになって井上の脇を通り抜けようとしたが、強い力で腕を引かれてバランスを失った。

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