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第13話

「いっ……」 ぶつかったのは…井上の胸だった。 「何かされたのか」 「はっ?」 この人は何を言っているんだろう…。 「遠藤は俺の後輩です。何もしません」 「…遠藤?アイツか…」 今、俺は言わなくていいことを言ってしまったのか? 「何か勘違いしてませんか?とにかく…」 井上の腕を振り払おうとしたがきつく掴まれてほどけない。 そのまま強引にドアに向かう。 「…とにかく離して下さ…あんっ…」 後ろから捕まえられた…否…抱きしめられた…。 さらに顔が熱くなる。 「アイツは危険だ。近づくな」 勝手な事を…。 「…俺は大丈夫ですから!」 顔を隠して腕を無理矢理ふりほどき…俺は逃げた。 逃げたと言っても所詮会社員…行ける場所は限られている。 トイレで顔を洗い、デスクに戻って大人しくデータ入力や、リスト類の作成に集中して気を紛らわせた。 隣の席の遠藤も何食わぬ顔をしてパソコンに向かっている。 一体なんて日だ! 告られるし、脅されるし…。 忙しいんだ、ヤメテクレ…。 そして今日も宇田島さんからのお呼びだしがあった。 「浅井くん」 「はい」 宇田島さんと休憩室で打ち合わせ中なのだが距離が…近すぎる! この人のパーソナルスペース絶対におかしいよ! 長椅子の端に座っている俺にぴったり寄り添うように腰かけている…。 向こう側、空いてますよ~。 「今日こそ食事に行こう。19時に入り口ね」 「え…でも…」 「部署に迎えに行くよ?」 脅迫? まぁずっと断ってきたし…一回位は仕方ないか…。 「一回だけですよ。いい店に連れていって下さいね」 「楽しみにしててよ。損はさせないよ?」 …宇田島さんの言葉に少し引っ掛かったが…今日食事に付き合えばそれから解放されると思う事にした。

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