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第14話
終業時間を知らせるチャイムが鳴る。
あぁ、やだなぁ…行きたくない…。
でも約束の時間までもう少し仕事をすれば…何とか間に合うな…。
不本意でも約束は守らないと、はぁぁ。
時計を気にしつつも仕事を進めて…でも行きたくない…。
「浅井、顔…大丈夫か?」
あ、顔に出てた?ヤバい。
梶さんが心配してくれてる。
良く気のつくイイ人だ。
「大丈夫です。お見苦しくてすみません」
はは、と愛想笑いだけして今度は真面目に(見えるように)仕事をした。
宇田島さんとの待ち合わせ時間より五分早く、会社の入り口に着いた。
「浅井くん、早いね」
宇田島さんが驚いたような顔をして小走りに近寄ってきた。
「待っててくれるほど楽しみにしていてくれたんだね。嬉しいよ」
そういう訳じゃ…宇田島さんこそ笑顔が炸裂してますよ…。
「それじゃあ行こうか、浅井くん」
「はい、お手柔らかに…」
宇田島さんはスキップでもしそうな勢いだった…。
「次はおしゃれな所で少し飲もうよ」
「はぁ…」
宇田島さんと創作料理の店で食事をして店を出ると、間を置かずに次の誘いをかけてきた。
ここで断って、また今度になったらそれこそ面倒…なので
「ちょっとだけですよ…」
と誘いを受けた。
賑やかな通りの一本裏手、少し薄暗い路地に明かりが漏れている。
下方からの光を辿り古ぼけたドアの先に…レトロな雰囲気のしゃれたバーがあった。
カウンターの向こうにダンディーな男。
いわゆるマスターって人か?
奥のボックス席に着いた。
「何にする?」
「…ビールで…」
守備範囲外の場所で何を頼んだらいいのか…わかるか!
「じゃ僕も同じものを」
俺に気を使って同じものを頼んでくれた。
正直、居心地が悪い。
宇田島さんが隣に座ったからかもしれない…。
反対側は壁…何故そこに座るのだろう…。
…逃げられないじゃないか!
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