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第26話
普段通りに勤務してるつもりでも、どこかぎこちない。
顔がひきつっている。
右手で頬をぐいぐい揉んでいたら頭をポンと誰かが叩く。
見れば梶さんだった。
「浅井、俺の所にまざってた」
「ありがとうございます」
青いレターケースが差し出され受け取ろうと手を伸ばしたが何故か離してくれない。
「俺宛てですよね?」
梶さんが視線を廊下に向けた。
呼び出しか。
「あと五分、猶予下さい」
「了解」
きりのいい所まで作業を進めて席を立った。
廊下の先の…いつもの自動販売機の前で梶さんはいつもの如くコーヒーを飲んでいた。
「ほら、よっ」
大きく腕を振って缶コーヒーを投げてきた。
「わわっ」
俺の好きなカフェラテだ。
キャッチ出来てほっとする。
「ありがとうございます」
自動販売機の奥にベンダーが備え付けたベンチがあり、梶さんは目でそこを指した。
座れって言ってる?
はあ、とため息が出そう。
でも先輩の前なのでそっと一つだけ落とした。
俺がベンチに座ると、梶さんは俺と自販機の間に腰を下ろした。
それから両手を背もたれに掛けて背骨が反り返るように座り直して喋り出した。
「浅井…遠藤とデキてるの?」
ぶっっっ!
なんちゅーことを!!
コメディーの如く、カフェラテが口から噴霧される。
「…んなわけ無いです…」
手の甲で濡れた口元を拭おうと右手を持ち上げると…梶さんに腕を捕まれた。
「な…」
何するんですか…
…最後まで言わせてもらえなかった。
梶さんが俺の口に噛みついてきた…。
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