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第28話
つ…疲れた。
梶さんの謎の行動により俺の疲労感はいつもの倍に感じる。
だがありがたいことに今日は面倒な案件もなく定時にあがれそう…。
一応哲にメールでも送っとくか。
ポチっと送信ボタンを押すと遠藤がこちらを見ていた。
「ん?どうした?」
「あ…いえ…」
歯切れの悪い遠藤…気にはなるが根掘り葉掘り聞くのも…という訳で放置。
電話や来客もなく、黙々と処理していくといつの間にか終業となり、俺は哲と合流すべく一階ロビーへと向かった。
そういえばいつもは会社の外で待ち合わせるのに、今日は出入り口に近いとはいえ社内。
何故だろう?
俺は通りを塞がないように自動ドアより三歩奥に立ち哲を待っていた。
退勤する人達が目の前を通る。
その中に奴がいた。
俺と目が合ったまま通りすぎる…井上。
俺から視線を外さずに、睨んだまま扉の外に出ていった。
「ごめん!」
十分程して、哲が慌てた様子で人を掻き分けてきた 。
「社内は走らない」
「帰りがけ、部長に捕まって…」
肩を大きく上下させている。
「しょうがないだろ?会社員なんだから」
ゴメンね、としつこく謝ってくる哲と会社を出て哲の部屋に行った。
今日は手作りのタンシチューを食べさせてくれるらしい。
うちは極めて一般的な家庭だったのでタンシチューなるものは家で出されたことはない。
ホワイトかビーフか、どちらか。
「哲、料理好きなの?」
俺の一歩前を歩く哲の腕を捕まえて引っ張った。
くん、と後ろに少し傾き、俺を振り返った哲の顔が…
「あれ?顔出した方がいい男じゃないか!」
口からそんな言葉が飛び出していた。
丁度前髪を掻きあげた所で振り返った哲の横顔は…女子が群がってくるんじゃないかと思うほど…カッコ良かった。
「…興味ない」
哲はそっけなく答え前髪を元通りにした。
「いやいや出せよ」
俺は哲のおでこに手を伸ばしたが、腕を捕られ寸での所で失敗した。
「外じゃ、ダメ」
哲の口許が月のようにわらう。
胸の奥が、ざわついた。
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