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第31話

「ふうっ」 カタカタとキーボードを打つ音が響く中で梶さんの指はさっきから止まったまま。 朝から梶さんが怒っている…。 パソコンのモニターを見つつ、ちらっと梶さんに目をやるが…俺を見る目だけがやけに硬く眉間に縦皺が深く入っている。 「なんかやらかしたか…俺?」 「浅井さん、どうしたんですか?」 大きめの声で独り言を言ってしまった途端に遠藤がこそっと声を掛けてきた。 「いや…梶さんが…」 「梶さん?あぁ、今日は機嫌イマイチですね。何かあったのかな?」 遠藤にも梶さんの機嫌の悪さは伝わっているようだ。 はて…? 「それより浅井さん、そろそろ打ち合わせじゃないんですか?」 遠藤の言葉で思い出した。 「やばっ!あと五分しかない!どこだっけ?」 「A会議室って言ってましたよ」 ナイス!遠藤! 「サンキュ!」 俺は会議資料を鷲掴みにして猛ダッシュで部屋を出た。 「ヤバい~!」 社内はもちろん走ったりしてはいけないのだか…緊急事態だ。 今日の会議は社内の広範囲を網羅するように各部署から人が集まってきて、しかもその一回目。 お偉いさん方も来るに違いない。 遅刻なんてご法度、査定に響く。 階段を2段づつ降りて開く自動扉すれすれに通る。 構内は全速力で走り、隣の建屋の守衛室の前を引きつった笑顔で通過した。 会議室のドアが閉まる直前にギリギリ室内に入り込めた。 「…セ…セーフ…」 肩を大きく揺らし、空いている席を探すと司会者の目の前が一席空いていた。 何食わぬ顔をして着席し、回りをゆっくり見回すと…よりによって隣に井上が座っていた。

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