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第55話

リビングの手前、半分ほど扉の開いた書斎らしき部屋に哲はいた。 椅子に座り、何かを読んでいる。 「哲、ここにいたのか」 「しゅうちゃん!」 俺が声を掛けると哲は音を立てて椅子から立ち上がり駆け寄ってきた。 「辛いんじゃない?呼んでくれたら行ったのに」 「う…動ける…」 見栄を張ってそう言ってみたが、哲は心底心配そうに俺を見ていた。 「…ギリギリだけどな…」 「ふふ…動く元気があるなら何か食べる?」 そう言えば…腹は減ってる。 「美味い飯が食べたい」 哲に今言えるワガママはこれだけ。 美味い…美味いんだけどこの雑炊って、俺の体を気遣ってのメニューだよね。 そもそも、オレがこんな目に合わされるのっておかしくないか? 雑炊をほとんど平らげて、そんな事を考えた。 「哲、何で…その…あんな事…」 哲に問いかけながら、昨日?の行為を思い出し、だんだん自分が恥ずかしくなってきた。 「言ったでしょ」 不貞腐れた子供のような表情をして俺を見る。 「ずっとしゅうちゃんの事が好きだったって」 「それ…何で?」 「俺はね、しゅうちゃん。優しくてかっこいいしゅうちゃんの事が子供の頃から好きなだったんだ!」 自分から尋ねておいて…アレだ…恥ずかしいよ。 だからって… 「だからあんな事したのか?」 哲の顔色が曇る。 「だって…ライバルがいっぱいいて…気が気じゃ無かったから」 …ライバル…それ多分いないよ? 思わず心の中で突っ込んだ。

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