56 / 304

第56話

「勘違いしてるみたいだけど、俺にはそんな奴いないって」 哲は納得出来ないって顔で俺を見た。 「昔から鈍いよね」 ぐっ…。 否定はしないがそんな事、今言わなくていい。 「現にしゅうちゃん…僕が初めてじゃないでしょ」 …言い当てられて顔が熱くなった。 「個人情報…だから…秘密…」 言い淀みながら答えるが…分かるもんなのか? 「僕があれだけ準備して進めてきたのに…腹が立つ」 「スマン…。あ、謝らないぞ」 勢いで謝ったけど、俺、悪くない。 人が知らない間に勝手にやりやがって! 「…しゅうちゃんの相手は遠藤…違うな、梶…だろ?」 何で!どうして?! 「どこまで把握してンの?」 「ひ・み・つ」 ニヤ…と口角を片側だけ上げて薄く笑う…いや、笑ってない…。 哲に底知れぬ恐怖を感じた…。 こんな奴だったんだ。 言いたいことも聞きたいこともいろいろあったのだが、その後は哲の家でテレビなんぞ見て緩く過ごし(動けないから!)もうこれ以上何もしないと約束させて、再び眠る事にした。 一緒に眠りたいと哲は言ってたが、勘弁してくれ。 俺は自分を襲ったような奴と同衾出来るような肝っ玉じゃない。 本当は自分の家に帰りたい。 一人になりたい。 でも、体が辛いんだ。 今日明日位は哲に面倒を見させる! 強い意志を持ってベッドに入った。

ともだちにシェアしよう!