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第56話
「勘違いしてるみたいだけど、俺にはそんな奴いないって」
哲は納得出来ないって顔で俺を見た。
「昔から鈍いよね」
ぐっ…。
否定はしないがそんな事、今言わなくていい。
「現にしゅうちゃん…僕が初めてじゃないでしょ」
…言い当てられて顔が熱くなった。
「個人情報…だから…秘密…」
言い淀みながら答えるが…分かるもんなのか?
「僕があれだけ準備して進めてきたのに…腹が立つ」
「スマン…。あ、謝らないぞ」
勢いで謝ったけど、俺、悪くない。
人が知らない間に勝手にやりやがって!
「…しゅうちゃんの相手は遠藤…違うな、梶…だろ?」
何で!どうして?!
「どこまで把握してンの?」
「ひ・み・つ」
ニヤ…と口角を片側だけ上げて薄く笑う…いや、笑ってない…。
哲に底知れぬ恐怖を感じた…。
こんな奴だったんだ。
言いたいことも聞きたいこともいろいろあったのだが、その後は哲の家でテレビなんぞ見て緩く過ごし(動けないから!)もうこれ以上何もしないと約束させて、再び眠る事にした。
一緒に眠りたいと哲は言ってたが、勘弁してくれ。
俺は自分を襲ったような奴と同衾出来るような肝っ玉じゃない。
本当は自分の家に帰りたい。
一人になりたい。
でも、体が辛いんだ。
今日明日位は哲に面倒を見させる!
強い意志を持ってベッドに入った。
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