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第64話

「カンパイ」 サラリーマンの悲しい性だな。 差しで井上とグラスを合わせる、そんな日が来るとは。 冷えたビールをぐっと喉に流し込むと一日の疲がどうでもよくなる。 「井上は…事代堂と仲いいんだな」 愉快…違うな、あの騒々しい男。 「あの人懐っこさと…あとは同い歳だからかな」 「井上の同期かと思った」 「浅井の同期だろ?」 …いたかな…あんな大きい奴。 腕を組んで傾げてみるが…酔いが地道に脳を鈍らせているのか…思い出せない。 「ぷはっ、そんなに考え込まなくていいよ」 だいぶアルコールが入っているせいか、井上がふにゃりと笑う。 「何だよ、笑えるじゃん!」 俺が知ってる井上はいつも眉間に皺が寄ってて、嫌味な事ばかり口にしていた。 井上はびっくりした顔をして、それからまた笑った。 「笑わない訳ねーだろ!」 バシンと背中を叩かれ、手酌のビールがとぷっと跳ねる。 「っぶねー…んっん…」 くうっ!ンまい! 「あちっいな…」 ネクタイをシャツから引き抜いて鞄に突っ込んだ。 …ん? 井上は熱っぽい目でこっちを見てる。 お互い酔っ払ってるのかな…。 「浅井、ほら」 「ん、サンキュ」 コップに注がれる金色の液体。 井上を気にしつつゴクゴクとビールを飲んだ。 「お前、俺の事嫌いなの?」 だいぶいい気分になって、今日の本題を井上にぶつけた。 「…」 そこ、だまるとシャレにならないから…何か言って! 「…図星か…」 項垂れ、唇を噛んだ。 「違う!」 「…あぁ、分かった「分かってない!」よ…」 俺のシャツを引っ張って井上は必死に訴えてきた。

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