71 / 304

第71話

「あ〜疲れた」 来客を通りまで見送り若干強ばっていた肩から力が抜けた。 今日は取引先のお客様に社内を案内してからの打ち合わせ。 オレは迎えに行ったり案内したりと基本はもてなす仕事なのだが会議中はする事が無い割に拘束時間が長くて意外と力が抜けずに酷く疲れるのだ。 「後は…報告書まとめて…それから…」 階段を上りドアを開けようとして、ふと自販機の所に人が居るのを見かけた。 ベンダーが設置したベンチに座り頭が垂れている。 「…遠藤…?」 声を掛けるタイミングが分からずとりあえず自分のデスクに戻った。 梶さんはパソンコに向かっていつも通りに作業を行っていた。 「梶さん、ちょっといいですか?」 「ん?何だ?」 パソンコから俺に視線を動かす梶さんはいつも通りだった。 「遠藤、具合でも悪いんですかね」 「ん〜、そうじゃないみたいで…」 椅子を回転させ、体をこちらに向けて梶さんは大きくため息を吐いた。 「…アイツもハッキリとは言わないんだけど…」 右手で髪をかき上げて頭を掻く。 「悩み事があるみたいでさ、しんどいんじゃない?」 そう言って梶さんはちらっとオレを見た。 悩み事ねぇ…。 話を聞く位しかしてやれないけど…二人きりは気まずい。 「梶さん、遠藤の悩み…気になりますよね」 「まぁな、カワイイ後輩だからな」 ん?いささか棒読みなのが気になるけど、梶さんと三人なら飲みに誘ってもいいか。 遠藤の悩みが解決するかはわからないが、話くらいは聞いてやってもいいだろう。

ともだちにシェアしよう!