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第72話
「梶さん、今日は俺と遠藤と三人で飲みに行きませんか?」
「…いいよ。遠藤の事が気になるんだろ?」
さすが梶さん。
気落ちした様子の遠藤を慰めてやりたいのだが、二人きりは避けたい。
「遠藤は元気だけが取り柄だからなぁ」
随分と酷いことを言ってる気がする。
「ま、俺に出来ることは限られてますけど」
「浅井に慰めてもらえるなんていいよな」
梶さんが不穏な事を言うが、そこはスルー。
「じゃあ仕事終わりにいつもの居酒屋で」
「…いや、今日は金曜日だし、違う所でもいいか?」
…ん?珍しい。
いつもお気に入りの店に行きたがるのに。
「え…え、いいですよ」
「後で場所…送信しとく。ついでに遠藤にも連絡しとくよ」
「ありがとうございます」
遠藤の心配事が何かは分からないが少しでも気が紛れればいいと思った。
本当に軽い気持ちでそんな事を思っていたのだが同情は簡単にするべきでは無い。
後々、俺は酷く後悔する事になった。
終業後、梶さんに連れられて向かったのは一人では帰れなくなるような入り組んだ所にある店だった。
「ここ、酒が美味くていいんだよ」
中を覗き見ると、照明がついてるにもかかわらず店内は薄暗い。
「ほら、入れ入れ」
梶さんに背中を押され問答無用で入店したが、一人なら絶対に入らない。
だが入れば店内の照明の暗さはそれほど気にならなかった。
梶さんはずんずん店の奥に進み、最奥のボックス席に三人座った。
「とりあえずビールとつまみだな」
梶さんが手際よく注文をしてる間、遠藤の様子を伺っていたが、黙っていて何に落ち込んでいるのか分からない。
さて、遠藤をどうやってなぐさめようか。
俺はその事ばかり考えていた。
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