87 / 304
第87話
就業時間を過ぎても仕事は終わらない。
書類に目を通しながら、哲にどう言えばいいのかを考えていた。
哲の事は嫌いじゃない。
だけど身体を繋げたいと思うような感情は持っていない。
心が無ければセフレと同じじゃないか。
俺は好きな人とだけセックスをしたかった。
だが現実は違う。
幼馴染みや会社の先輩、後輩と関係を結んでしまった。
こんなだらしない自分に嫌悪感を持つ。
サイテーだ。
刹那の快楽に身を落として周りを巻き込み傷つけている。
哲とこれ以上不毛な関係を続けたくない…。
「しゅうちゃん…関係ない人がいるけど」
退勤間際にメールを送り、数少ない味方を伴って哲を呼び出した。
会社から少し離れた夜の公園は思いの外人通りも無く、話をするのにちょうど良かった。
「二人きりってのも…まぁ…」
…気まづいだろ?
心の中で言葉を繋げた。
哲は両腕を組み、こちらを睨んでいる。
俺は助っ人に井上を呼んだ。
哲と二人きりになれば…また間違えが起こる可能性を否定できない。
「しゅうちゃんは僕を切り捨てるんだ」
「捨てるとか、言うなよ」
「だって、そうだろ!」
射抜くような強い視線。
その視線の先に井上がいる。
「落ち着いて浅井の話を聞いてやれ」
俺の隣で井上が静かに言った。
「僕としゅうちゃんの事に他人は口を出すな!」
哲が井上の胸ぐらを掴み、至近距離から大声で威嚇した。
ともだちにシェアしよう!