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第91話

…眠れない…。 ダブルベッドとはいえ、成人男性二人が並んで寝転がれば窮屈だ。 背中合わせの暇妙な距離でいるせいか腕がベッドから落ちる。 「井上、悪いな。俺がいると狭いだろ?今からでも床で…ン!」 「浅井…気にすンなって」 そう言ってこちら側に向いた井上は腕を俺の身体に乗せ、まるで抱きしめられているようだ。 「…い…今からでも床で…「ダメ」ひゃん!」 首筋に顔を埋め、耳元でしゃべらないでくれ! 爛れた行動(人はそれをセックスと言う)のせいで、井上の動作にいちいち反応する自分が恨めしい。 下半身が落ち着かなくなり、もぞもぞしてしまう。 「ねえ…あいつらって…浅井の何なの?」 「え?」 本当の事は言えない。 絶対引かれる…そして蔑まれる。 「…会社の…先輩と後輩…」 「…ふーん…」 暫し流れる沈黙の時間。 「彼女とか…いないの?」 「いないよ…居たことないし…」 この歳までいないのを堂々と言うのも恥ずかしいな。 「俺…気になってる奴がいるんだ…」 …え… 「…へえ…」 「意識しすぎて、うまく話せなかったけど…最近は少し近づけたと思う…」 「よかったじゃないか」 …いたのか、そんな人…。 …そうだよな。 …イケメンだし、良い奴だし…。 「井上に好かれる人は幸せになるよ」 ふっと本音が零れた次の瞬間、井上の顔が覆い被さるように俺の顔の上にあった。

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