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第97話

「ぁ…はあ…ン」 全力疾走がやっと終わった気分…。 肩で息をするが、運動のそれと違うのは息に混じる艶めいた声…。 …恥ずかしいくらい喘いで…男なのに… 「…なんか…気持ち良すぎた。…こっち向いて?」 「…ムリ…」 顔を見られまいと腕を顔の上に乗せて隠す。 「とりあえず拭かないと…」 井上がティッシュを数枚取って俺の腹に飛び散った体液を拭う。 手は下腹部に移動し下生えをなぞりさらにその下の…。 「じ…自分で…あ!ちょっと…ンン!」 はっとして慌てて頭を上げた。 「いいって…ほら…ん?」 井上の含みのある声に、俺の緩く勃つモノがピクっと揺れる。 「ダメ…もうムリ!」 井上からティッシュを奪い、自分で処理した。 いやもう、ホント無理…。 「可愛がってあげたいのに…」 …これ誰? …少なくとも俺の知ってる井上じゃない…。 「ふぁぁ…ん〜」 カタカタと鳴るキーボード。 家には帰らずに井上のシャツとネクタイを借りて出勤した。 ちょっとオーバーサイズだが…誰もそんなの気づかないだろう。 仕事の手を止めてネクタイの表面を撫でる。 シルクのそれは青と緑の色合いで落ち着いた…でも地味には見えない。 そのまま返せばいいと言ってくれたけど、ワイシャツだけはクリーニングに出してから…などと考えて急に可笑しくなった。 俺、凄く浮かれてる…。

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