100 / 304
第100話
「付き合ってるよね」
「…まぁ…そうなるのか?」
仕事の合間に事実関係を確認すべく、休憩室に井上を呼び出した。
こいつ…あっさり肯定したよ…。
「そうか…付き合ってるのか…」
口に出して繰り返し唱えてみる。
初めての事なので勝手が分からず戸惑うが、そんな俺の胸中を見越したかのように井上が言った。
「修士…デートしようよ」
他に誰もいない狭い休憩室の死角で壁際に追い込まれる。
額同士をコツンと当てて上目で俺を見る井上は…慣れてる…。
「動作もイケメンかよ…」
「何?」
「何でも…。そう、デートな!」
下ろしていた指がいつの間にかいわゆる恋人繋ぎになっていて顔が緩む。
週末に井上とデートの約束をして、俺はスキップしそうな程浮かれて自分のデスクに戻った。
それから仕事自体は忙しく、面倒なアレコレも特には起きずに週末…朝イチで井上が家に迎えに来た。
「駅集合でいいのに…」
「俺が来たかったんだって」
駅までの道のりを二人で歩く。
いつもの道がなんだか違って見える不思議…。
「今日は電車でK駅まで行って…」
「やっぱり車で行こっか?こっち…」
近くのコインパーキングに青いセダンの国産車が停めてあった。
「乗って」
助手席のドアを開けて促される。
スマートな動作に井上の彼氏力の高さを見た気がした。
バタン、とドアを閉めてシートベルトを締めると井上が俺の手を握り微笑みかけてきた。
「俺のことは光希生って呼んで。こんな時まで修士に井上って呼ばれたくないよ」
ああ、うん、そうだね…。
「努力する…」
「出来なかったらお仕置だから覚悟して」
「え?」
聞いてない、てか勝手に決めるな。
「出発〜」
車がゆっくりと走り出した。
ともだちにシェアしよう!