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第104話

「ドライブは?」 出発するかとシートベルトを締めたものの、エンジンの止まったままの車中で光希生に問う。 「今日、全然イチャイチャ出来なかった」 …そこ? 「キス…したい…」 「えぇ?」 光希生はハンドルに突っ伏し、チラッと視線を寄越す。 「今?」 「今」 まだ水族館の駐車場にいるというのに…。 「ほら、人通りもあるし…親子連れも…ン!」 シャツの襟元を引かれ、シートベルトの抵抗虚しく唇が奪われた。 時間にしておよそ三秒。 「ンッ…誰かに見られたらどうすんだよ」 直ぐに光希生から離れ腕で口元を拭ったが、不意の出来事で涙目に。 「…いいな…」 「は…?」 「ん?何でもない。帰ろ?」 「ああ」 薄暗くなってきた空の下、光希生の運転する車は他車のテールライトを追って流れるように幹線道路に出た。 行きとは違い黙って運転する光希生は何を考えているのだろう。 「ウチに…寄ってく?」 流れる景色をぼんやり見ていた時、そう言われて、 「あぁ、うん」 曖昧に返事をしていた。

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