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第105話

「入れよ」 マンションの七階、角部屋、恐らく南向き。 「いい部屋に住んでるな」 「そうか?」 途中で寄ったコンビニの袋を光希生に渡して靴を脱ぐ。 部屋の奥、柔らかな白で統一されたリビングにはテレビとソファーが置かれていた。 「上着掛けてその辺に座ってよ。必要ならそれに着替えて」 光希生が指さした先にグレーのスエットがあり、俺は有難く借りる事にした。 「カンパーイ」 …何に乾杯なのだろう…。 頭の中でそんな事をチラッと思いつつ缶ビールに口を運んだ。 「今日は楽しかった」 俺の隣、ご機嫌でツマミを食べる光希生はもうビールを空けて、チューハイを飲んでいる。 「ペース早いぞ。水飲めよ」 「だって嬉しいんだもん」 …だもん、って…子供か! 「俺、ずっと修士が好きだったからさ…二人で出掛けるとか…嬉しすぎ」 言いながら両手で顔を隠す。 「よ…良かったじゃないか」 返事をしながら俺は自分も顔を赤くしているのが分かった。 酒が入ったせいで心拍数が上がり、ドキドキする。 「あ…お土産…」 光希生が水族館のロゴが入った袋の中からキーホルダーを取り出した。 「コレ付けてよ」 可愛らしいサメと鈴がついていた。 「俺のはコレ!カッケー!」 ダイオウグソクムシ…。 「ああ、うん、そだね」 一目見て目を逸らした。 「よく見てよ〜いいでしょ〜?」 甘いチューハイの匂いが鼻をかすめる。 俺にもたれ掛かりふへへと笑っているが、そんな無防備にくっつかないでくれ。 「酔っ払い!」 反対側に押し返すと増々グイグイ突っかかってきて、結果、ズルズルと床に押し倒されてしまった。

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