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第120話

「浅井さんこの間は本当に申し訳ありませんでした!」 席に着くなり熊田さんが腰を九十度曲げて俺に謝罪し、ざわめく店内を凍らせた。 「…ちょ…こんな所で、止めてよ」 冷たい視線が俺に突き刺さる。 「まあまあ、その位にして。浅井さん生中でいいですか?店員さ〜ん!」 軽く空気を読まない遠藤がお品書きを片手にシャキシャキと注文し始めると、凍った空間は一瞬で溶けて周囲からの冷たい視線が俺から外れた。 「じゃ、乾杯〜」 遠藤の合図でグラスを鳴らす。 「浅井さん、先日は大人気ない所をお見せして恥ずかしいです…」 桐谷さんが幾分か頬を赤らめて俺に話しかけてきた。 …もう酔いが回ってるのか…。 きっと酒に弱いんだろうな…。 「あの…びっくりはしましたけど…熊田さんと仲がいいと聞いて納得しました。本気でぶつかれる相手がいるっていいですよね」 …ん?桐谷さんの顔から表情が消えた。 俺、変な事言った? 遠藤、熊田さん、桐谷さん、三人とも変な顔で俺を見ている。 「あの…?」 「いえ…何でも…」 何だろう…ぎこちない。 話題を変えよう! 「熊田さんいい飲みっぷりですね〜。もう一杯どうですか?」 「そんな…浅井さんこそ、どうぞどうぞ」 酒を勧めてるはずが逆に勧められ…ヤバい…いい気持ちになってきた。

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