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第129話
出来れば行きたくなかった。
二度と。
「いらっしゃいませ」
ダンディーなバーテンダーが当たり障りのない笑顔で店に迎え入れる。
先客が二人いたが、それぞれ単独で酒を楽しんでいる様子だった。
「あそこ、奥の席に行こう」
俺の気持ちを知らずに光希生はスタスタと前を歩く。
落ち着いた薄暗い店内はよく見れば手入れが行き届いていて、椅子もテーブルもよく磨かれていた。
「シュウはここによく来るの?」
ドキッ…。
「連れられて数回…」
「ふ〜ん」
…何だろう探られてるのかな?
「何にする?」
…分からん…こんな所そうそう来ないし…
「…まかせる」
「オッケー」
ミキは店員を呼んで何やら注文し、俺にウインクした。
は?キザ?
「ギムレットハイボールとバレンシアでございます」
…オシャレだな。
普段居酒屋でビールやハイボールしか飲んだことの無い俺には分不相応な飲み物だ。
「ほら、ギムレットハイボール。そんなに度数高くないからコレなら大丈夫だろ?」
「あ…うん…ン、コレ美味いな」
喉を通り抜ける炭酸が刺激的で心地いい。
「なぁ…ミキは…こういった店、初めてじゃないんだ?」
「うん?ん〜知り合いが店をやってて、手伝ったりとか…そんなもん」
ふ〜ん…そうなんだ。
俺は醜態を見せまいとチビチビと酒を飲んだ。
酒は俺を別人に変える…ような気がする。
一杯目が終わる頃、見た事のある二人連れが店に入って来た。
桐谷さんと熊田さんだった。
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