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第146話
「単刀直入に言います」
桐谷さんが目を細め、上唇を舐めた。
「浅井さんの事が好きです。もちろん性的な意味で」
…はぁ?
「… …えっと…」
言葉が出ない。
「桐谷ダメだろ?浅井さんは井上さんと付き合ってんだから」
「それはさっき聞いた」
…?!
「…えっと…ゴメンなさい…」
俺にはミキという恋人がいる。
そもそも男が好きな訳じゃないし。
「勘違いしてませんか?」
俺を見てにっこりと微笑む桐谷さん。
「浅井さんには拒否権が無いんですよ?」
…ん?
…それって…もしや…
「脅迫…」
「正解。だって…こんないやらしい写真…恋人に見せられます?」
二本の指で挟み、ひらひらと宙を舞う。
…ぐ…ぬぅ…
…過去。
…あれは過去の事。
でも…井上が見たら…当然気分よくはないだろう。
「何が目的だ…」
「浅井さんの事が好きだから、酷い事はしたくないんです」
ケッ、どの口が言うんだか!
「…そうですね…僕の言う事を聞いてくれたらこのデータ、消してもいいですよ」
見下ろすような視線と、 吊り上がる薄い唇。
俺は全身から冷や汗が滲み、目の前が真っ暗になった。
「無言は肯定、ですよね。始めましょうか」
開いた唇の中には欲望の色に染まった赤い舌が覗いていた。
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